10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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「死ぬ気で考えろ!」と言ってくるオニ上司のありがたさ

重職心得箇条(5)大臣の心得

田口佳史
老荘思想研究者
情報・テキスト
『重職心得箇条』第二条では、「大臣の心得」が説かれる。多くの部下を従える人物にとって、最も大切な心がけは何か。多くの経営者や政治家を育ててきた老荘思想研究者・田口佳史氏の解説で、幕末の名著を読み進めてみよう。(全15話中第5話)
時間:08:12
収録日:2015/12/22
追加日:2016/05/02
『重職心得箇条』第二条では、「大臣の心得」が説かれる。多くの部下を従える人物にとって、最も大切な心がけは何か。多くの経営者や政治家を育ててきた老荘思想研究者・田口佳史氏の解説で、幕末の名著を読み進めてみよう。(全15話中第5話)
時間:08:12
収録日:2015/12/22
追加日:2016/05/02
≪全文≫

●社員に思いを「尽くさせろ」ということ


 第二条に入ります。

 「大臣の心得は、先づ諸有司の了簡を尽さしめて、是を公平に裁決する所、其の職なるべし。」

 「有司」というのは、国家でいえば役人、企業でいえば部下に当たります。その「了簡(りょうけん)」とは何か。了簡にはさまざまな字が当てはめられていますが、「考え」というふうに読めばいいと思います。

 ですから、それぞれの部下の考え方や思考力を尽くさしめること。ここでは思考を「させろ」とはいわず「尽くさせろ」と言っています。このことが今日的にも重要なところです。

 現代の企業の競争は、独自市場の形成に移っています。もっと言えば、独自価値の提供ができているかどうか、他にない価値を提供しているかどうかです。これらは商品開発やサービス開発に結集されるわけですが、その大根(おおね)は社員それぞれの思いにあります。「何とかこの世にない、もっと斬新な、もっとすごい商品を生み出せないものか」と、社員が四六時中考えている。「尽くせ」と言っているわけですから、そのぐらい思わなければいけません。


●企業経営の根幹をスティーブ・ジョブズにならう


 私は『超訳 孫子の兵法』(三笠書房)でもやはり、「現在、知力の限りを尽くせ、それが企業経営の根幹だ」と言っています。企業経営をなめてかかるなと言っているわけですが、その最大のポイントは、この「了簡を尽くせ」にあります。商品が世に出るその日まで、もっと改善できるところはないのか、もっといい商品にならないのかを追求するということです。

 スティーブ・ジョブズとは私も交流がありましたが、彼がしょっちゅう言っていた言葉があります。「人は、形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいか分からないものだ」というものです。

 だから、顧客に聞いてみても意味がない。プロであれば、「絶対にこれが欲しいはずだ」「欲しかったのは、これですよね」と言って、こちらから出してやるものだということを言っているのです。これこそが、「了簡を尽くさしめて」ということです。こういう精神がまず大事であることが、ここでは存分に強調されています。

 そうやって取締役が、自分の部下たちに「了簡を尽くさしめ」ると、いろいろな人が「こう考えました」「ああ考えました」と、どんどん挙げてくる。そのときには、「是を公平に裁決する所、其の職なるべし」でいかなければなりません。

 公平に裁決するときに絶対に絡んではいけないのが好き嫌いです。日頃から自分の好きな人間については、どうしても甘くなるし、嫌いな人間には辛くなるというようなことは、あってはいけない。要するに、バックグラウンドをなくし、仕事自体を単独で見て、いいか悪いかを判断することが重要です。「公平に裁決する所」には、部下を扱うコツがあることを教えているのです。


●『貞観政要』が問いかける、創業と継続の難しさ


 これについて思い出すのが、『貞観政要』という唐代の書物です。この中で、唐の太宗は、こういうことを質問します。「諸君は、創業が難しいか、継続が難しいか、どっちが難しいと思うかね」と。

 側近の房玄齢(ボウゲンレイ)という人は、「それは創業でしょう。創業ぐらい難しいことはありません。何と言ってもこちらも力がないのに、大敵を相手に戦わなければいけない」。だから創業が難しい、と答えます。

 また、魏徴(ギチョウ)という新たに部下になった人物は、「いや...
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