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自己鍛錬を目指す人に知ってほしい数々の名言

重職心得箇条~管理職は何をなすべきか(2)一途と覚悟で道を究める

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
『超訳 言志四録 佐藤一斎の「自分に火をつける」言葉』
(田口佳史著、三笠書房知性生き方文庫)
東洋思想研究者・田口佳史氏が『言志四録』なども手がかりに佐藤一斎の思想に分け入っていく。田口氏は、これから自己鍛錬に精進しようとしている世代にこそ、佐藤一斎に学んでほしいと力説する。その一斎が主張し実践したこととは何か?(全15話中第2話)
時間:13:42
収録日:2015/12/22
追加日:2016/04/11
タグ:
≪全文≫

●佐藤一斎の人と思想を語る『言志四録』


 私も『言志四録』について著作(『超訳 言志四録 佐藤一斎の「自分に火をつける」言葉』、知的生き方文庫)を出していますが、この書物を佐藤一斎がずっと書いています。これはもう亡くなる数年前まで、過去40年間にわたって、自分の思うところを書いたものです。まさにいろいろな意味合いを持ち、人生観を語っているし、人生論でもあるし、仕事論でもあるし、中でも死生論、生き死にというものについてはこうやって思うべきだとか、そういうことが綿々と書かれている書物です。特に皆さまご存知のことを言えば、西郷南洲が島流しになった時に、この『言志四録』を持っていき読みふけって、その中から101カ条を抜き書きして私書を作ったというような逸話がありますが、そういうことをしたいと思わせるぐらいの名言がざーっとあるのです。

 幕末の儒者で非常に名前が挙がっている人も、著作があまりないと、非常に残念なことですが、その人の人となりや、特に思想や哲学を解明しようにも解明できないのです。江戸は、それこそいわば学問立国と言ってもいいぐらいに北は松前藩から南の鹿児島まで、「この人あり」という藩儒がもうごろごろしていました。そういう人たちの学問の跡をお訪ねするというのが、後人である私の仕事であろうということで、いちいち出向いたその地域が、江戸時代の藩に移し替えるとどういう藩になるのか調べて、その藩の藩儒の2、3人を必ずご紹介するというのが、私が各地域に伺うときの講義の慣例になっているのです。ですが、存外、この佐藤一斎のようには著作を残してくれていないので、その人がいて、いろいろな書を残しているとか、漢詩を残しているということは分かるけれど、これほど詳細に自分の考え方を述べていませんので、なかなかその人の思想哲学を解明するということはできないのです。

 非常に幸いにも、この佐藤一斎はここまで残していてくださるわけで、佐藤一斎という人がどういう考え方で、どのような信条を持って人生を送られたかということが、非常にはっきり、明確につかむことができるのです。これはありがたいことです。


●エネルギーを一途に学問に振り向けた一斎


 したがって、佐藤一斎というのはどういう人だったか、特徴だけをまず申し上げます。前回お話ししましたが、「学問の家系である」と言うと、とかく青白きインテリのようなイメージになってしまうと思うのですが、全くそうではなく、むしろ今日的に言えば体育会系と言ってもいいぐらいのものです。剣はすこぶる上達をして、誰にも負けないような剣筋を持っていたということで有名です。さらに、佐藤一斎自身が『言志四録』の中で書いていますが、自分は裸馬に乗って、ロデオのように暴れまくる馬をだんだん制御して、しまいには手なずけてしまうのが、何よりの楽しみであった、ということを書いてあります。こんなことは、それこそ驚異的な体力がなければできないものです。

 そして、剣の道にも優れ、また、体力も優れているという人が、あるとき、学問一途に生きようと思ったのです。そこには何があったのか。これは、多くの書物を見ても判然としないところが残念なのですが、ともかく、学問に生きようと思ったのでしょう。そのエネルギーを一途に学問に振り向けたというところが、すごいところです。『言志四録』の中にも、「学に志すの士は、当(まさ)に自ら己を頼むべし」、つまり、「学問の世界で生きようなどという人は」と――彼は学問の世界で生きたから言うのですが、これは何の専門でも何の仕事でも当てはまります――「この社会でこの道で生きようと思って志を決めた士は、まさに自ら己を頼まなければいけない」。つまり、誰かが頼んで、なんとかこの道を継いでくれというから、仕方がないから継いだとか、そういうものではない。「人の熱に因(よ)ることなかれ」と言っているわけです。まずそういう意味で、自分がこれから学問の道を目指しているのだから、何があってもこれを覆すということがないというぐらいに、一つ決意を固めてこの道に入ったと言ってもいいのですね。


●一斎の主張-自己の確立


 そして、思想哲学的に、彼はどういうことを主張しているのか。それはたくさん言えば言えるわけですが、中でも私はこれが非常に重要だなと思っていることが一つあります。それをお話ししましょう。一つと言えば、「自己の確立」ということを彼は非常に言っているわけです。自己の確立というと、心の問題、精神の問題というところに終始しがちですが、彼の言っている自己の確立とは非常に幅が広く、奥行や深さがあり、いろいろな意味合いで言っているのです。

 一番身近な意味合いから言えば、「一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うることなかれ。ただ一燈を頼め」という有名な...
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