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北条政子も愛読した長期政権のバイブル『貞観政要』

『貞観政要』を読む(1)長期政権を目指す者の必読書

田口佳史
老荘思想研究者
情報・テキスト
北条政子(菊池容斎画、江戸時代)
老荘思想研究者・田口佳史氏が、中国唐代の編まれた古典『貞観政要』を丁寧に読み解いていく。唐の太宗・李世民の言行録をまとめた『貞観政要』は、古来より帝王学の教科書として重視され、リーダーたる者の読むべき第一級の古典とされてきた。田口氏はまず、この書物の成立した背景や現代中国での位置づけを語った。(全15話中第1話)
時間:15:53
収録日:2016/07/25
追加日:2016/10/31
≪全文≫

●『貞観政要』とはどんな書物か


 今回から『貞観政要』という書物を読みます。このところ、『貞観政要』もだいぶ皆さんに読まれることが多くなったので、改めて紹介するまでもないと思いますが、一つだけ申し上げたいことがあります。

 今回扱う『貞観政要』の基となっている書物がこの本です。これは明治書院から出ている「新釈漢文大系」の一つとして編まれているものです。この版は二巻で構成されています。当時は唐の時代です。遣唐使が日本と中国を頻繁に行き来していました。時期で言えば真ん中以降の遣唐使の頃に、『貞観政要』という書物ができます。それで唐では、皆がこれを読んでいました。「なぜ皆が読んでいるのですか」と聞くと、「長期政権の基本が書いてある」と教えてくれた。「それはいいですね」ということになって、遣唐使の諸君が皆それを持ち帰り、日本の政権を長くしようと考えました。618年から唐代で、李世民の即位が626年です。630年から遣唐使の派遣が始まり、その後、かなり長期間続きました。これはずいぶん長く続いたと思います。

 この本を全部持ってくるのも大変ですから、「ここはすごく良いな」「ここが良いな」と、遣唐使の一人一人が「ここがいい」「あそこがいい」を思った部分をばらばらに持ってきました。これが江戸期まで、ずっと続いたのです。だから、何となくばらばらと『貞観政要』が入ってきたことになります。そのため、いろいろなタイプの『貞観政要』が日本にありました。


●『貞観政要』の整理に一生をかけた学者の存在


 もしこの本がそういう状態ならば、今、私が皆さんに「この貞観政要というのは・・・」とお話をすることもできません。つまり、何をもって本当の『貞観政要』といっていいのか分からないというものなのです。時代的変遷で文章も多少違っており、ある文章が別の文章になっているなどします。そういう事情のため、「これが正当な『貞観政要』だ」というのがよく分からないわけで、それでは『貞観政要』を正当に読むこともできません。

 この本(「新釈漢文大系」の版)の最後に、著者である原田種成(たねしげ)という人の名前が書いてあります。この原田種成先生こそ、『貞観政要』を一生かかって全て読了し、「こちらとあちらは対になっているべきだ」とか「これはここに入っているべきだ」と言いました。一生を『貞観政要』のために生きたような方です。

 私は、学者という人の最大の役割は、後の世の人間の学問を非常に円滑に進めるための奉仕をすることだと思います。それが、学者としての最大の役割だと思います。彼がいたから、後の代は学びやすくなった、そういうものが最大の役割だと思います。

 この原田種成先生の存在は、中国古典全般の中でも非常に稀有な例ですし、学者全般から言っても、一生かかって整理にずっと尽くすということは、「言うは易し行い難し」です。そういう意味で、私はいつも『貞観政要』を読む前に、前提として、原田先生に心の底から感謝を申し上げる意味で、先生の偉業に対して敬服の念を表し、このことを皆さんに申し上げることが通例になっています。こういう方がいたから、今これが読めるのだということを、ぜひ忘れないでいただきたいと思います。


●現代中国の政治家は、歴史から大いに学ぶ


 私が『貞観政要』という書物をどう解釈しているのかということから、お話ししたいと思います。まず『貞観政要』という書物は、唐の2代目の皇帝、太宗である李世民の言行録です。その前提には、漢に...
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