●強大な兵力と栄華を誇った隋は、あっけなく滅亡した
「昔在、有隋、寰宇(かんう)を統一し」。隋が天下、「寰宇を統一し、甲兵彊盛(こうへいきょうせい)」、非常に優秀な兵力と強い国家を率いた。「三十餘年、風」。これは威風でしょう。威風、「萬里に行はれ」。隋の威風がずっと引き続き、威力や権威が「殊俗を動かす」。殊俗とは、いろいろな俗のことですから、すなわち外国という意味です。隋の威風は外国すらも動かした。
「一旦挙げて之を棄て、盡(ことごと)く他人の有」。そこまでは、栄耀栄華を誇っていた。その栄耀栄華を見るにつけ、隋はほとんど永久不変に続いていくだろうと、皆が思った。しかしその隋も、あっけなく「一旦挙げて之を棄て」。全てが放棄されたかのように「盡く他人の有」、全部が他人の持ち物になってしまった。
歴史という事実はすごいですね。栄耀栄華を振るった、これは滅びることはないのではないかとされたようなものも、全てぶちまけてしまったかのように、あっけなく、そしてことごとく散乱してしまう。そういった滅亡の仕方をするのだということです。
その時、「彼の煬帝は豈(あ)に天下の治安を惡(にく)み」。その時のトップリーダーであった煬帝はどういう人だったかと言えば、「治安を惡み」、非常に安定的に推移をしているものを、ついうっかり軽視してしまった。彼は「社稷の長久を欲せず」。社稷の長久、すなわち国家が長く続くことを望まなかった。天下の平安なものを憎み、それから社稷(国家)の長く続くことを欲せず、「故らに桀虐(けつぎゃく)を行ひ、以て滅亡に就かんや」。自分を殊更、滅亡に向けて全て滅んだ方が良いとしたのかと言えば、そんなことはない、と言います。
端から見ていると、何か自暴自棄で、自分の運営している国家など今すぐ滅んだ方がいいと言わんばかりに、滅びの体制にずっと行っている。賢者から見れば、このように見える。しかし本人は、そんなことは少しも思っていない。長久に続いてくれと言っているが、どの滅んだ国家も、倒産した企業なども皆そうである。そういう意味で、こういう失敗の研究、あるいは前の時代の研究が非常に重要だと言っています。
●富国強兵政策が、民を疲弊させていった
「其の富強を恃(たの)み」。隋の煬帝も、自分の国家の富める状態、非常に強い状態をいつも頼みにした。しかし、そのように富ませようとか強化しようと思えば思うほど、やっていることは逆になってくる。ここがポイントです。「後患を慮(おもんばか)らず」。つまり、後に憂いが生じてしまうような強引な方法で、富強を追求し、それを頼みにしてしまう。だから問題が目に入らなくなってくるということでしょう。
「天下を驅(か)りて以て欲に從ひ」。あの国を取ろう、この国も取ろうといって、実力不相応にどんどん仕掛けていった。これも、自分の国家を長久に続けたい一心からくる行為なのです。別に、早く滅ぶようにやっているとは思っていない。しかしここがポイントです。自分の国家あるいは企業を長続きさせたいと思えば思うほど、反対のことをやってしまう。注意すべきは、自分が現在取っている方法です。これを、客観的に、第三者としてよく見ることが重要だと言っています。
「天下を驅りて以て欲に從ひ、萬物を罄(つく)して自ら奉じ」。全てのものを、自分の強化のために使っている。「域中の子女を採り」。いろいろと自分勝手な理由をつけて、優秀な人間や美女を、自分の周りにどんどん置いていくようになる。「遠方の奇異を求め」。そのうち、心も若干おかしくなってきて、栄耀栄華に狂ってくる。そうなると、遠くの珍物、珍しい物を求めて、さらに栄耀栄華の極致である「宮苑」、宮殿と庭園でものすごいものをつくり出すようになる。
「薹榭(だいしゃ)」は庭園、朝廷ということですから、それを一層すさまじく華美にします。それは、国家の象徴として、「うちの国はここまで繁栄しているのだ」と、蛮族に見せつけてやろうという思いでやるのですが、実際に工事をするのは誰かと言えば、国民です。国民が使役に取られてやります。ですから、リーダーがそう思えば思うほど、「徭役」、使役も休みなく、「時無く」、行われる。
今度は戦争、「干戈(かんか)」でどんどん領地を拡大しようと言っているわけですが、これも結局は国民が兵役に駆り出されていくわけです。「戢(おさ)めず」、「外」、外面は「嚴重を示し」。外側には非常に厳しい暮らしを国民に求めているにもかかわらず、内面、すなわち宮殿の中はそうではない。
宮殿の中はもっと陰惨になってきて「險忌(けんき)多く」と言われます。皆、疑い深くなってくるわけです。これは、歴史を見てみれば分かるように、信長にしろ秀吉にしろ、全て晩年の偉人は、人...