10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
このエントリーをはてなブックマークに追加

諫義大夫・魏徴が古典に語らせて君主を諌める

『貞観政要』を読む(3)長期政権の運営を邪魔する要因

田口佳史
老荘思想研究者
情報・テキスト
老荘思想研究者・田口佳史氏による『貞観政要』の読解講座第3弾。『貞観政要』は、長期政権の築き方を考える際、「なぜ政権は崩壊したのか」という視点から考える。歴史を顧みれば、異国の侵攻だけでいきなり倒れた国はなかった。国が倒れる時は、それ以前から内部が蝕まれているのだ。それを防ぐため、リーダーはどうあるべきか。(全15話中第3話)
時間:19:10
収録日:2016/07/25
追加日:2016/11/17
≪全文≫

●第一は、君主の道とは何か


 それでは、本文に入りたいと思います。まず「君道第一」というところから、この書物は始まっています。これは、君主の道、君主のあり様ということです。まさにこれが、この本の肝であり、これが何かを説くために、この本があるのだといっても過言ではない。その「君道第一」を丁寧に読んでいきたいと思います。

 「貞觀の初、太宗、侍臣(じしん)に謂ひて曰く」。貞観の始まりは、先ほどから申し上げているように、626年、すなわち太宗(李世民)がトップになった年です。その時に侍臣、これは左右に「さぶらう」(侍はここからきた言葉です)人です。「さぶらう」とは、お付きの臣下という意味です。それが左右にいる。この人たちは、多くは「左右史」とも呼ばれ、トップの発言を全て正確に筆記するという役割を負った人です。そういう意味もあって、この侍臣という言葉が出てきます。

 「侍臣に謂ひて曰く、君たるの道は、必ず須(すべから)く先づ百姓(ひゃくせい)を存すべし」。百姓は、今でこそ「農民」という意味でしか使っていませんが、正しくは、これは百の姓を指します。いろいろな姓名がありますよね。それを言っているのですから、百姓といえば国民、民(たみ)という意味です。


●君主の道は「この国で良かった」と民に思わせること


 まず何のために君たる道があるのかと言えば、民を存するためである。「存す」とは、民の存在を明らかにすることです。存在を明らかにするとはどういう意味かと言うと、みんな一人一人が「生まれてきて良かった」と思えることです。

 「社長の道は社員を存すべし」と言います。社長の役割は、「この会社へ入って生きていて良かった」「この会社に入って仕事して暮らしていて良かった」と思わせること、そういうところにある。同じように、国民一人一人に「生まれてきて良かった」と思わせるところに、この本の着眼があるということが言われています。

 反対に、「若し百姓を損じて以て其の身に奉ぜば」とも言います。当時は多くの場合、例えば戦争になれば民、百姓は駆り出されます。あるいは朝廷の建物を修繕するとか、造園、大変な園庭を造るなど、これらも全部使役となって、民が駆り出されていました。その上、税金というものを取る。税金でもって国家は成り立っているわけですから、税金を取らざるを得ない。「百姓を損じて」とは、百姓に損ばかりを強いるということです。

 そこで「身に奉ぜば」とは、全てをトップのために奉仕させることを指します。それは「猶ほ脛(はぎ)を割きて以て腹に啖(くら)はすがごとし」。これは有名な比喩です。脛とはすねです。つまり、自分のすねの肉を切って、それを食べているようなものだということです。「すねをかじる」という言葉も、こういうところから来たものですが、「脛を割きて以て腹に啖はすがごとし」。

 民がいて初めてトップが成り立つわけですから、民といえば自分のすねのようなものである。それをこき使って、それを割いて自分で食べているような状態になればどうなるかというと、「腹飽きて身斃(たお)る」。腹がいっぱいに朽ちて、その瞬間に両足をなくし、倒れてしまうということを言っています。


●国の滅亡は、内部崩壊から生じる


 「若し天下を安んぜんとせば」、天下安泰にしようと思えば、「必ず須く先づ其の身を正すべし」。『貞観政要』全編にわたって、何回も何回も出てくるのは、歴史を顧みて外からの侵攻だけで倒れた国はないという...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。