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リーダーはエベレストよりも高い志を持つべきである

『貞観政要』を読む(11)リーダーたる者は高みを目指せ

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
老荘思想研究者・田口佳史氏による『貞観政要』の読解講座第11弾。唐の皇帝・太宗に対し、部下である魏徴はさらに進言を続ける。魏徴は、リーダーたる者の本質を語る。国の王は、安泰であれという天の願いを体現した者であり、より天に近づけるよう努力すべき存在だ。自身を高め続けることが、組織を維持する秘訣なのだ。(全15話中第11話)
時間:11:33
収録日:2016/08/01
追加日:2017/02/27
≪全文≫

●大樹には深い根、優れた王には深い徳がある


 「是の月」。同じ月にまた魏徴が上疏しています。同じ月に、これまで私たちが読んできたようなことを、また太宗に申し上げるのです。考えてみると言い足りないことがある、もっときちんと言っておいた方がいい。こう思ったからです。この辺りが彼のすごいところです。自分が得心するまで、きちんと諫言、忠言する。これが非常に重要です。

 「又上疏して曰く、臣聞く」。私(魏徴)はこう聞いております。「木の長ぜんことを求むる者は、必ず其の根本を固くす」。簡単に言えば「木の長ぜん」、樹木を大きくしようと思えば思うほど、そのように望んでいる人は、必ずその根本、根っこをしっかり固くするということを、私は聞いております。さらに「流の遠からんことを欲する者は、必ず其の泉源を浚くす」。流れがずっと勢い良く遠くまで行くことを望む者は、まず泉源、水の源を深く深くして、水量を多くするということを聞いております。

 したがって、こういう自然に、われわれが学ぶべきことがあるのです。それは「國の安からんことを思ふ者は、必ず其の德義を積む」。国がなぜ安泰になっていくのかと言えば、これはひとえにリーダーの徳義だということを言います。

 今度は反対です。「源深からずして流の遠からんことを望み」。流れがずっと遠くまで行くようにと思っているにもかかわらず、源を深くしない。「根固からずして木の長ぜんことを求め」。大樹にしようと思っているにもかかわらず、根を固めようとしない。それは「德厚からずして国の治まらんことを思ふ」。徳が国の大本だというにもかかわらず、ただ「国が治まってくれ」と言うことと同じなのです。でもそれだけでは駄目なのです。あなたの徳如何によって国の治まり方が違うのです。こういうことをぜひしっかり思ってください。

 「臣」、私(魏徴)は、「下愚なりと雖も」愚か者ですが、「其の得可からざるを知るなり」、根本を粗末にして(安泰を)得られている歴史的事実を存じません、と言います。「而るを況んや明哲に於てをや」。まして陛下は明哲でいらっしゃる。そういう意味で「人君、神器の重きに當り」。国家は神器ですから、人である君主はその神器である国家の重い位に当たって、「域中の大に居り」大いにあるものである。こういうことを言っています。


●リーダーは高みを目指すべきだ


 「將に極天の峻を崇(たか)くし」。これも良い言葉ですね。天に届くような高い位を、さらに高いものにして、という意味です。これは、少し解説が必要な重要な言葉です。「極天の峻を崇くする」とは、組織の一番上にいるのがリーダーですから、そこは国の中で天に近いところでもあります。そして、そこをどれだけ高くして天により近づけるかが、トップリーダーの命なのです。組織の長として、人間の一番上に位置しているぐらいで満足してもらっては困るということです。

 やるべきは、そんなものではありません。それこそ富士山より高く、エベレストよりも高くなってもらわなければいけないのです。自然よりも高い境地、つまり天のより近く近くへ行くということが重要です。

 これは一体どういうことを言っているのか。天は、人が平安で健全な社会と愉快な人生を送ってくれることを、唯一の念願として存在しています。しかし、天にはそれだけの身を現すことはできませんし、言葉を費やすこともできません。そこでどうしたか。人間という一つの存在をこの地に遣わせました。これが天命論です。特にリーダー、君主であり国王である人たちは、人間の中でも天の期待が非常に大きい存在です。だからリーダーのことを、天に代わって生きている人という意味で「天子」と言うわけです。

 社長や部長、課長など「長い」という字を持っている方が、いつも考えていただかないといけないのは、「より高くより高く」「天に近く天に近く」という心境を持つということです。これがあるかどうかに、成功不成功の肝があるということを、私は言っています。ぜひ「極天の峻を崇くして」、天の極みという境地を高くしてくれ、ということです。


●何もない時こそ、慎重に行動せよ


 「永く無彊(むきゅう)の休を保たんとして」。無彊の休とは、休みのない、限界のない褒美です。天が「よくやってくれている、ありがとう」ということを極みなく「安きに居りて危きを思ひ」。その最大のポイントは、何にもない時にこそ、ということです。無事の時、平時である。これが大切です。そういう時だからこそ、危うきを思うことを忘れないことです。いつもリスクを感じて準備する。その準備も、悲観的に準備して楽観的に行動することが重要です。

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