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未来社会でヒトが道徳を使いこなすためには?

道徳と多様性(6)未来に向けてどう生きるべきか

鄭雄一
東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授
情報・テキスト
「道徳と多様性」シリーズの最終回は、いよいよソリューションの提案である。混血児が差別されたり、一つの価値観を強要されるのは、ヒトが「相対的掟」を絶対視しているからである。掟の相対性と絶対性を区別してはどうだろうか、と東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻教授・鄭雄一氏。多様性に富む未来社会で、ヒトが道徳を使いこなすための科学的方法が提案される。(全6話中第6話)
時間:15:00
収録日:2016/10/07
追加日:2017/02/09
≪全文≫
●混血児にとっての「バーチャルな仲間」は誰か

 最後は、「未来に向けてどう生きるべきか」です。

 バーチャルな仲間の話をしてきましたが、ここで一つ、思考実験をさせてください。今、日本では33人に1人が混血児だといわれています。彼らにとって、右翼的なヒトがよくいう愛国心や民族のアイデンティティなどの概念は、明らかにバーチャルです。試しに、彼らの両親が属する宗教・民族・国家が互いに争っているというシチュエーションの思考実験をしてみてください。

 状況次第で彼らは「君は味方の血を半分持っているから仲間だよ」とも、「味方の血を半分しか持っていないから敵だよ」とも、「敵の血を半分持っているから敵だよ」ともいわれます。ここでは、血の比率は問題になりません、4分の1でも8分の1でも基本的には同じことです。実例として、米国南部には悪名の高い「One drop rule」というものがあり、公にはならないものの、今でも適用されているはずです。これは、家系の中に一人でも黒人がいたらそのヒトは黒人であり、見た目がどんなに白人そのものでも、黒人として扱われて差別されるというルールです。

 ここで分かるのは、混血児をどちらか片方のカテゴリーに押し込めるのは無理だということです。半分であれば2分の1が真実であって、「お前は○○人」と呼ぶのは、無理があります。それが、現実に存在している彼らの居場所をなくしているのです。

 血だけでなく、文化でも同じです。社会を中心に据える考え方が強調されると、往々にして文化の強要が多くなります。「お前はどっちか?」と、踏み絵を踏ませるのです。しかし、彼らにとっては半分なわけですから、「半分です」と言うしかありません。

 このように、ことばに基づくバーチャルな仲間意識はあいまいで、可変的で、相対的な面があるということをよく認識しなければいけません。


●実は出入り自由な「バーチャルな仲間」の範囲

 これが「仲間の構造バージョン2」です。シリーズ前回に紹介したバージョン1(仲間と非仲間)では、ここを非常にきっちりした線で描きました。われわれにはリアルな面識で形成されるリアルな仲間がいます。親、兄弟、親友など、リアルな出会いでできる、とても強固な仲間ですが、多くて数百人で、あまり境界も変わりません。

 ところが、その回りには、ことばに基づくバーチャルな仲間がいて、この範囲は結構可変的です。サッカーの応援を考えると分かると思います。普段はJリーグで狭い地域を応援していますが、ワールドカップになると日本になり、アジアのチームがだんだん抜けてくるとアジアを応援したりするようになります。ということで、非常に可変的です。

 先ほども言った通り、バーチャルな仲間の中では、これまでも道徳はよく守られ、また守られようとしています。ところが、非仲間には道徳は適用されません。どちらも同じです。ただ、バーチャルな仲間の辺縁はあいまいで、相対的で、可変的です。リアルな仲間ももちろん少しは変化しますが、これは非常に強固なものであるということです。


●バーチャルはリアルな出会いの便利なサロゲート

 バーチャルな出会いは悪用・乱用といった具合に操作されやすい。実はわれわれは普段から大きく影響されています。

 例えば、デマ・扇動があります。仲間グループの歴史や現実を美化して、敵グループのそれをおとしめることで、優越感と差別意識を生み出します。これは多数派ばかりが問題になりますが、実は少数派も結構問題であることがよくあります。同じことを逆方向にし合っているという、救いようのない状態です。

 それから、次は論文不正です。これは東大が問題になったことがありますが、なぜこんなことが起こるかというと、著名雑誌に掲載されて有名になるためで、データを盗用、捏造、改ざんするのです。とんでもないことです。

 続いて、さまざまなランキングです。多くのヒトが有名ランキングをうのみにしますが、実情とは懸け離れていることが多い。大学ランキングも訳が分かりません。自分たちが最近低めに出されているから文句を言うわけではないですが、実際に海外の大学へ行って研究の話をすると大したことはないのです。でも、何かいろいろと訳の分からない基準をつくっているところがあります。最近では国際化の基準が極めて大きく出てしまうため、研究そのものとは全然関係がなかったりします。

 こういうことがあると、本末転倒です。バーチャルのためにリアルを犠牲にすることが起こっているからです。私たちが認識しなければいけないのは、やはりバーチャルというのはあくまでリアルな出会いの便利なサロゲート(代行者)であるということです。ですから、現実とのずれを定期的にチェックする必要はあるだろうと思っています。


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