10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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道徳と多様性は両立できず!個人と社会の道徳モデルの限界

道徳と多様性(2)過去の道徳思想はどうなっている?

鄭雄一
東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授
情報・テキスト
ルネ・デカルト
東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻教授・鄭雄一氏が「道徳と多様性」について論じる連続講義。今回は、過去の道徳モデルを一気通貫、分析する。見えてきたのは、代表的な思想は2つのモデルに分類できるということ。しかし、いずれのモデルも「道徳と多様性の両立」には不十分、という事実だった。(全6話中第2話)
時間:12:53
収録日:2016/10/07
追加日:2017/01/12
ルネ・デカルト
東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻教授・鄭雄一氏が「道徳と多様性」について論じる連続講義。今回は、過去の道徳モデルを一気通貫、分析する。見えてきたのは、代表的な思想は2つのモデルに分類できるということ。しかし、いずれのモデルも「道徳と多様性の両立」には不十分、という事実だった。(全6話中第2話)
時間:12:53
収録日:2016/10/07
追加日:2017/01/12
≪全文≫

●過去の道徳思想を調査、分析する


 では、第2章に移ります。前回、現状を分析して問題点が分かりましたので、次に、科学の通法ですけれども、過去の人はどうなっていたのか、過去の文献はどうなっていたかということを調べます。そうしないと、同じことを2回してしまうことになり、すでに回答が出ているかもしれませんので、そこを見てみました。

 過去の道徳思想はどうなっているか。倫理の授業を思い出してください。疑問1(誰が、なぜ、殺人はいけないと決めるのか?)、2(なぜ戦争や死刑では殺人が許容されるのですか?)に対する回答は道徳に対するスタンスになるのですが、大きく2つに割れていました。このことを利用すると、過去の思想もかなりきれいに分類できます。ここの部分は、あくまで道徳(善悪の区別)に関する視点からの分類であって、その人たちの哲学全体に対する話ではないことをご注意ください。また、この論考の目的は思想史ではありませんので、高校の教科書に載っているような代表的思想のみ取り上げます。


●社会に重点を置く道徳モデルー宗教、伝統、習慣


 そういたしますと、先ほどの疑問1、2に対する回答から分かってきたように、1つ目のモデルとしては社会に重点を置く道徳モデルが考えられます。このモデルの内容を1つのステートメントで表すとこうなります。「理想の社会があり、そこで決まった理想の道徳がある」という考えです。スライドでは『東大理系教授が考える 道徳のメカニズム』(ベストセラーズ)のページ数を示してありますので、もし詳細をお知りになりたい方はそちらをご覧ください。

 この典型例は宗教です。全ての宗教はある理想形があって、その中で決まった理想の道徳があるということを、キリスト教、イスラム教、仏教、皆はっきり言っています。


●問答無用で、特定の社会を神格化する


 これとよく呼応して、伝統や習慣に基づく社会でもこういうことがあります。例えば孔子の教えです。周王朝の初期を理想化して、そこに返りなさい、というようなことを説いています。アリストテレスの場合には、彼が生まれ育ったギリシャのポリスの理想的な状態に戻りたい、と言っています。会津の「什(じゅう)」は昔、はやりました。これは「ならぬことはしてはならない」ということを言っていますが、その「ならぬこと」とは伝統や習慣で決まっていることなのです。

 これはどういうことかとざっくり言うと、つかみどころのない現実に、考えたり行動するための特定の枠組みを与えてくれるという、非常に便利なものです。ところが、これは問答無用なのです。そのまま受け入れることが重要で、問答無用、すなわち疑問を呈してはいけないというものです。子どもに教えるには便利ですし、小さい子どもには、これで全然構わないと私は思います。

 ですが、先ほど言った通り、絶対に疑問を差し挟むことを許しません。信仰とはまさにそういうものです。ある枠組みをもらったときに、それをそのまま丸ごと飲み込むことが信仰そのものですから、それで良いわけですが、よく考えてみると、これは特定の社会を神格化することになります。これは語弊があるかもしれないのですが、思い切り単純化させていった場合、右翼的思想の方を見ていると分かります。「こういう素晴らしい社会があって、みんなそこにコミットすべきである。問答無用である」、そういう考え方になります。


●個人に重点を置くモデルーデカルト以前


 これに対立するもう一つの考え方が...
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