10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
10MTVオピニオンは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
このエントリーをはてなブックマークに追加

トランプ政権の現状を見て日本は今後どう対応すべきか

トランプ政権研究(11)日本が取り組むべき3つの課題

島田晴雄
公立大学法人首都大学東京 理事長
情報・テキスト
公立大学法人首都大学東京理事長の島田晴雄氏が、トランプ政権について解説する連続講義の最終回。トランプ氏はこれまで主張してきたことをほとんど実現できておらず、さほど恐れる必要はない。むしろ日本は病めるアメリカを理解し、支えていくため、いっそう緊密な日米関係を構築していく必要がある。(全11話中第11話)
時間:11:43
収録日:2017/05/23
追加日:2017/07/03
ジャンル:
≪全文≫

●トランプ氏の主張は挫折ないし修正を余儀なくされている


 最後に、ドナルド・トランプ政権の現状を踏まえて、日本は今後どのように対応すべきか、ご説明します。これまで見てきたように、トランプ氏は知識・経験が不足しているだけでなく、不勉強です。性格も粗野で、情緒的で、すぐに激高します。疑心暗鬼で、被害妄想のパラノイアという、典型的な精神障害の症状が見られるということです。政権を支える側近には、スティーブ・バノン氏のようなデマゴーグの過激なナショナリスト、元軍人、実業家、そして家族しかおらず、あたかも零細企業の陣容です。大国の大統領の陣容とは、到底思えません。

 選挙公約で、メキシコに壁を造り、建築費用をメキシコに払わせると言いました。しかし、全く実現していません。イスラム排斥も、裁判所の抵抗によって挫折しました。トランプ氏自身は同盟軽視の姿勢でしたが、ジェームズ・マティス国防長官が同盟は大切だと言って回ったので、トランプ氏の無知さ加減が分かってしまいました。オバマケアを否定し、代替案を出したのですが、今後法案が可決されるかは分かりません。主要政策である大減税やインフラ投資、保護貿易は、いずれも実現していません。あるいは、実現するとしても、1~2年という相当な時間がかかるでしょう。そして、仮にその効果が出たとすれば、トランプ支持者に負担を強いるような自滅型の効果になります。政権スタッフの政治任命もひどく遅れているため、業務執行がしっかりとできていません。

 さらに、不公正貿易だとか、雇用を奪う国だなどと、中国のことを一番批判していましたが、北朝鮮問題の交渉をきっかけに、トランプ氏はそうした批判を取り下げました。今までの批判は一体何だったのかということになりますが、「見たか、これが俺のディールだ」という具合です。こうしたことでは困ります。バラク・オバマ元大統領が行った、イランに対する経済制裁の解除についても、トランプ氏は真っ向から反対していました。しかし結局、5月17日には制裁解除の期間延長にサインしています。ここでもトランプ氏の批判は宙に浮いてしまいました。このように、彼の主張していたことはほとんど全部挫折か、修正を余儀なくされている、という現状です。


●トランプ氏をさほど恐れる必要はない


 したがって、トランプ氏が当初徹底的に批判していた、世界の自由貿易協定や安全保障協力についても、影響は限定的でしょう。戦後70年間かけて、アメリカの主導の下、世界各国が構築してきた世界システムをトランプ氏が崩すのではないかと、多くの人は本当に心配していましたが、トランプ氏の実行力は結局この程度です。特に日米安保については、軍の信頼が非常に厚いマティス国防長官が、安全保障協力の重要性を再確認しています。同盟国はホッとしているところです。

 日米の経済関係についていえば、トランプ氏はTPPの意義を全く理解せず、結局アメリカは離脱してしまいました。結局2国間で取引するということになり、日米経済対話の実施が計画されました。しかし、日米経済対話の議論は、実はTPPで合意した条件を踏み台にして行われます。アメリカが日米経済対話に持ち込んだ条件は、ほとんどTPPですでに議論済みのものです。つまり、トランプ大統領は日本にとっても世界にとっても、それほど悪魔でも怪物でもなく、恐れる必要もさほどありません。知識や経験がなく、勉強不足で、自己中心的、情緒不安定の変わった人間だというだけの話です。したがって、こうした人を相手にしていても、うまくやることができれば、日米両国は政策上の一定の関係性を構築できるでしょう。

 4月頭には、日米経済対話のために、ウィルバー・ロス商務長官とマイク・ペンス副大統領が来日しました。テーマは、貿易・投資のルールづくり、経済構造分野改革、分野別協議です。これらは、TPP協議でほとんど対応済みの事柄です。アメリカの政権関係者は、ほとんど未経験の人です。例えばレックス・ティラーソン国務長官は立派な人ですが、政治経験はゼロです。人材がそろっておらず、業務執行能力があまりありません。こうしたアメリカの出方を、日本政府はゆとりを持って見ているのが現状です。


●日本は病めるアメリカを理解し、支えるべきだ


 もちろん懸念材料はたくさんあります。トランプ氏は性格が非常に極端ですし、人材登用も非常に偏っています。能力を全く考慮せず、自分に少しでも逆らった人やその関係者を、絶対政権に近寄らせません。これによって、共和党の3分の2ほどの有能な人たちが、全て排除されてしまいます。人材を忠誠心だけで選んでいるという、異様な姿です。また、知識・経験不足も否めません。選挙戦中は、戦後何十年も続いてきた北大西洋条約機構(NATO)というヨーロッパとの防衛協力体制について...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。