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消費増税の先送りで将来世代の負担が拡大した

日本の財政の未来(6)世代会計に見る将来世代の負担

小黒一正
法政大学経済学部教授
情報・テキスト
法政大学経済学部教授の小黒一正氏の試算によれば、2017年時点の世代会計では、20歳未満の将来世代は生涯で約8,000万円の損をする。消費増税を先送りにし、財政再建を遅らせていれば、さらにこの負担は拡大していくだろう。こうした現状を見据えて、財政再建に取り組む必要がある。(全10話中第6話)
時間:11:31
収録日:2017/09/04
追加日:2017/10/07
ジャンル:
≪全文≫

●各世代の生涯の受益と負担の構造を表す、世代会計


 今回は世代会計と公債の負担の関係について説明します。このスライドは、内閣府が平成17年度の年次経済財政報告で試算した、世代ごとの受益と負担の構造を示したものです。横軸には世代が書かれています。例えば、60歳以上では1943年以前に生まれた方々が、50歳代では1944年から53年に生まれた方々が含まれます。一番左側は、20歳未満を含む将来世代です。

 例えば、60歳以上ですが、青い棒グラフと赤い棒グラフが2つあります。青い棒グラフは、60歳以上の世代が、生まれてから亡くなるまでの間に、政府から受け取る受益を示したものです。そこには、社会保障の年金や医療、介護、さらにそれまで受けてきた教育のベネフィットが足し合わされています。他方、下側の赤い棒グラフは、60歳以上の方々が過去に払ってきた、税金や社会保険料といった負担を全て足し合わせたものです。

 青い棒グラフと赤い棒グラフの差が、折れ線グラフになっていますが、これは生涯で受け取る受益と、生涯に負担する税金や社会保障の差を示しています。例えば、60歳以上の方々では4,875万円の得になる一方で、20歳未満の将来世代は4,585万円の損をするということです。このように、各世代の生涯の受益と負担の構造を表したものを、世代会計と呼びます。


●将来世代が、およそ5,000万円損をする


 前回の議論を踏まえて、世代会計がどのような意味を持つのか考えてみましょう。前回の資料をもう一度見て下さい。前回説明したように、公債は将来世代にとって負担になる可能性があります。ただし、親世代が例えば5,000万円の得をしたとしても、5,000万円の遺産を残せば、子世代の負担は相殺されるでしょう。これは「公債の中立命題」と呼ばれています。

 では、公債と世代会計はどのような関係にあるのでしょうか。前回の公債発行・償却の図でいえば、60歳以上の方々がおよそ5,000万円得をしているということです。他方、およそ5,000万円損をするのは、将来世代です。60歳以上の方々からすれば、将来世代は孫の世代です。こうした世代会計の構図になっています。これは、そのほとんどが政府による借金と社会保障費に起因するものです。

 もし、高齢者の方々が5,000万円得をしていたとしても、5,000万円の遺産を残すことができれば、孫の世代である将来世代の負担はなくなるでしょう。そこでポイントになるのは、60歳以上の方々が5,000万円を移転するだけの資産があるかどうか、ということです。


●高齢世帯の資産の分布には、非常にばらつきがある


 高齢者の人々の資産分布を示したのが、次の資料です。高齢世帯の資産の分布には、非常にばらつきがあります。このグラフは「平成21年度・家計の金融行動に関する世論調査」に基づくもので、資産がない方の割合から、3,000万円以上の資産がある方の割合までを示しています。それぞれ、60歳代と70歳以上の割合が書かれています。

 3,000万円以上の資産がある人の割合は、60歳以上では大体2割弱、70歳以上では1割強です。他方で、貯蓄が全くない人も非常にたくさんいます。60歳代では大体2割、70歳以上であれば2割を超えます。また、500万円から700万円、あるいは1,000万円程度の貯蓄がある方も、結構多いことが分かります。平均値を見てみれば、70歳以上では1,379万円の資産ですが、全体数の中央に位置する資産額(中央値)は、600万円程度しかありません。


●世代交代がある場合、「公債の中立命題」は成立しない


 これを踏まえて世代会計を考える必要があります。5,000万円を孫に移転する場合、祖父母世代が自分の子どもである親世代にまず移転して、それを親世代がもう一度自分の子どもへと移転するという流れになるのが普通でしょう。しかし、そもそもそれだけの金融資産を持っている方が少ないというのが現状なのです。

 したがって、世代交代がある場合、理論が想定するようには「公債の中立命題」は成立しないということになります。結局、世代交代がある段階で債務が拡大すると、上の世代が公債の恩恵を消費してしまい、子の世代、孫の世代に遺産を残すことができず、彼らの負担は相殺されなくなってしまうのです。これはある意味で、公債の負担が存在する可能性を示唆しています。


●消費増税を先送りしたことで将来世代の負担が拡大した


 2020年に向けて、政府はプライマリーバランスの黒字化を目指しています。本来であれば2017年4月、その少し前は2015年10月に、消費税を8パーセントから10パーセントに引き上げる予定でした。2017年時点では、2019年10月に消費増税をするという計画になっています。ただし、この計画ですら先送りされる可能性もあります。

 遅くとも2018年12月までには、増税の判断を下す必要があるのですが、2019年の...
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