●意思決定プロセスから捉える戦史
―― 今回のシリーズ講話は、分かりやすく整理されていますね。こういう言い方をした人はいないですね。
山下 そうですね。1話10分程度で理解してもらうために内容を圧縮しているので、歴史に詳しい人からすると不満な部分もあるかと思いますが、「意思決定のプロセス」というところに重きを置いています。ですので、そこを理解してもらえればと思います。
―― これはすごく分かりやすいですね。
山下 後のシリーズもこういう形でポイントが分かるようにしたいと思っています。
―― こういうものが整理されたものは、今までに無いですよね。
山下 ものとしては無いですよね。歴史を研究している方はどうしても史実に忠実になり、それを評価しますので。教訓として残るにしても、それを実戦にどう適応するかという意味では、このようなまとめ方をしているものは、おそらく無いと思います。今回チャレンジするにあたり、うちの職員や関係者を総動員して、アンケートを取りました。
―― いや、すごく分かりやすいです。今までも、防衛研究所でこのようなことはやっていなかったですよね。
山下 そうですね。防研などでも作戦用務と部隊運用という二つの観点を並べて見るというのは、なかなか得意な人がいるわけではありません。海上自衛隊幹部学校は、単に普通のシンクタンクではない部分、いかに歴史上の事実を部隊運用や防衛力整備に反映させていくかという部分では扱っている分野が違うし、それはわれわれ制服を着ている者がやるべきことだと思います。そういう意味で、防研や他の大学やシンクタンクで似たようなものはあると思いますが、10分程度にどうやってまとめるかということについては、無いのではないかと思います。
―― 戦略が分かると、ぐっと濃密になりますよね。
山下 どこを言わなければいけないか、どこを伝えるかという意味で、制約そのものが逆に良い効果になっているのではないかと思います。
―― 戦史はたくさんありますが、戦っている人が実際に書いているわけではないから、山下さんが言われた「自分が東郷平八郎だったら」というまとめ方にはなかなかならないですよね。
山下 「自分が」という立場になるときに、自衛隊の立場からすると、そのときの場面を頭に描きながら「自分はどうだ、自分はどうだ」ということを繰り返し問います。それ自体が、われわれの使命、あるいは安全保障といった観点から重要です。そのため、歴史(研究)に携わっている方がどこに重きを置いて勉強されるかということとは、立場の違いがあります。そういった意味では、歴史家の皆さんがやっていることと、われわれ自衛隊がやっていることとは、明らかに違うということになると思います。
歴史を評価される方は、やはり歴史に忠実に「何が起こったか」というところに重点を置き、さらに時代背景も踏まえた上で分析をするのだろうと思います。当然そこは、われわれにとっても分析の第一歩ですが、「その先に何をするのか」という観点から考えると、やはり自分たちが置かれた立場が大きな違いになってくるかと思います。
●アメリカ海軍によるプロセス分析のすごさ
―― やはり米海軍はすごいですね。こういうものは(日本には)なかったわけですよね。
山下 はい。彼らは意思決定プロセスを常に見直しています。米海軍は、当時であってもこれを持っていたわけですが、今はさらにジョイントという世界にどんどん発展していますので、海軍の話だけでは通用しません。関係するものをいかにジョイント、すなわち共同の中で使うかということで、毎回毎回プロセスを見直しています。われわれもそれを参考にしながら、自分たちはどうあるべきかを考えています。
彼らは、この日本海海戦だけでなく、歴史上のいろいろな戦争、あるいは紛争に至った部分をことごとく検討し、一体何が意思決定のプロセスに影響を与えているかをよく分析していると思います。それを次にどう生かすかのノウハウの蓄積は、ただものではないと思います。
―― 大きい組織を動かすマネジメントの仕組みを、アメリカは持っていますよね。
山下 そうですね。
―― これは米軍に代表されますが、同じような感じで、GEの研修を見に行きました。500人の課長級の人材をグローバルから選び抜いて、最後10人の経営者候補を絞って採りにいく過程も、結局こういう話ですよね。
山下 やはり彼らは、民族や文化が違う中で、皆が持ち得る力をどうやって最大限発揮するかということについて、身体に染み付いている、あるいはDNAの中に入っているのではないかと思います。
これは文化論になってくるかもしれませんが、日本人の特性があります。やはり農耕民族という世界の中で、自然を相手にしながらも、種...