テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

今度はどうだ? 東京都知事になる人に問われること

東京都知事選と東京問題

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
「東京都知事になる人には、東京が抱えている問題を正確に理解し、どう対処するか、その明確な意志と政策がなければいけないが、そこが欠けている」 政治学者で慶応義塾大学大学院教授・曽根泰教氏は、7月31日に行われる東京都知事選挙に向け、そう指摘した。東京には、超高齢化や少子化をはじめ、インフラの老朽化、震災・防災問題、そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックなど、さまざまな固有の問題が山積みだ。これらの問題をどう解決していくのか。曽根氏が都知事選の意義と東京問題を考える。
時間:20:17
収録日:2016/07/13
追加日:2016/07/15
タグ:

●あるマニフェストが語る「都知事に求められるもの」


 「東京問題と東京都知事選」というテーマでお話しします。なぜ、そういうテーマ設定をするのかというと、東京都知事になる人は現在、東京が抱えている問題を正確に理解し、それにどう対処するかという明確な意志と政策がなければ都知事はできないからです。しかし、その点が非常に欠けているというお話です。

 まず最初に、このスライドを見ていただきたいのですが、これは2007年の東京都知事選における、ある人のマニフェストです。この中でこの人は、一番最初に「震災の不安」を挙げ、二番目に「高齢化の不安」を挙げました。ただ、震災の不安という点では、2011年に東日本大震災が起こりますが、この人は2007年にそれをマニフェストとして掲げて、落選しているのです。私は、2007年の時、マニフェストもいろいろと検証したのですが、その時は一番良いマニフェストとは評価していなかったのです。もちろん、当選した石原慎太郎さんのマニフェストは、もう少し乱暴なものでした。

 それから2011年に東日本大震災が起こり、「あれ、あの時のマニフェストって第一番に震災のことがきていたな」と思い出して、これを掲げた本人にメールを書きました。誰かといえば、浅野史郎さんです。当時、入院中でした。本人もこのマニフェストのことは忘れていたのですが、「いいことを思い出してくれた。そうだよ、確か私はあの時、震災のことを一番目に書いたんだよね」と、言われました。

 東日本大震災以降のマニフェストには、震災のことを挙げる人はたくさんいます。全国の首長さん、市長さんのマニフェストを見ていると、震災のことを上位に挙げる人はたくさんいます数多くいます。ですが、これは震災の前に書かれたものです。ただ、その時に書いたマニフェストは、当の本人が落選しているわけですから、誰も覚えていません。私は、マニフェストを一回ごと検証、チェックしていますが、私のようにずっと長いこと、いろいろなタイプのマニフェストを見ていると、「あのマニフェストは、実は有効だったんだな」ということを、後から振り返ることができるわけです。それが、この一つの例です。


●「東京の都市総合力第4位」が意味するもの


 次に、東京とは何かということです。それを考えるとき、このスライドを見ていただきたいのですが、これは東京が世界の何位かというランキングで、4位に入っています。これは日本の森記念財団都市戦略研究所がやっているもので、東京は比較的上位にくるわけですが、東京が4位というところが重要なのかどうかというとき、実はもう一つ問題があるのです。それ以外の都市はどうなのか、特に大阪はどうなのか、という点を議論した方がいいということです。ただ、一応東京が4位だということです。しかし、4位でもいくつか問題があります。これでは世界の金融センターにはなりません。あるいは、ビジネスのセンターとしては非常に弱いのです。また、日本は都市化率が、実は低い国なのです。その点も皆、気付いていません。


●ランキングに見る日本の大学の東京一極集中状態


 そこで、次のスライドをご覧になっていただきたいのですが、これは大学の順位です。ごく最近、「The Times Higher Education Supplement」の出した情報です。東大が1位から7位に落ちたという問題も、もちろんあります。指標、つまりチェックする項目が変わって、ある意味で日本の大学が不利になったこともあり、東大はウェブで「引用する際はその点にご注意ください」として、公開しています。

 しかし、私はそこを問題にしているわけではありません。この中で、シンガポール国立大学が第1位にくるのは皆納得すると思いますが、例えば第2位にシンガポールの南洋理工大学がきています。実は、私は今年の5月にこの南洋理工大学に行ってシンポジウムに参加してきたのですが、南洋理工大学という名前すら知らない人がいるわけです。あるいは、香港大学は知っていても、香港科学技術大学は知らない人もいます。つまり今、日本が競争しているのは、昔から有名な北京大学、清華大学、ソウル大学ではなく、南洋理工大学であったり、香港科学技術大学であったり、あるいは上海交通大学で、そのことを知るべきだ、ということです。

 これは東京一極集中論と同じですが、東京大学を一極集中だからけしからん、と叩いたところで、他の大学の地位が上がるわけではありません。そうした議論を繰り返しているだけでは同じことなのです。日本の他の大学は、京都大学が11位に入っていますが、それは世界のトップ100からアジアの大学だけを抽出してきた中での話で、日本が上位に固まって入っていないことに重要な問題があるということです。


...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。