●日系ペルー・フジモリ氏に見た明治のリーダーシップ
齋藤 最後に、非常に面白い話があるのです。本(『転落の歴史に何をみるか―奉天会戦からノモンハン事件へ』)にも少し書いたのですが、1996年にペルーの日本大使館人質事件というのがあって、あの時にフジモリさんという日系の大統領がすごいリーダーシップで解決しましたね。
その時、日本の新聞で読んだのですが、ペルーの一般の人に、「どうしてフジモリさんがああいう毅然とした、立派なリーダーシップがとれると思うか」と聞いたら、「それは日系人だからだ」と答えたと言うのです。つまり日系人のフジモリさんは、先祖が明治の時代に海を渡ってペルーに来て、昭和の日本を経験していない。明治の日本人の末裔なのです。そういう日系人がペルーではリーダーシップがあるというように思われているということで、これは最初ジョークかなと思ったのです。「リーダーシップがとれない、誰が決めているのかもわからない、それからボトムアップだというのが日本人のイメージだ」と、僕らは思っているではないですか。ところが、ペルーの人はそうではなくて、「リーダーシップをとれるのが日系人だ」と言うわけです。それはやはり、昭和の時代をバイパスして、明治の遺伝子が直接残っているからだなと、僕はその時思ったのです。
その3年後の1999年に、たまたまなのですが、NHKのど自慢がペルーであって、これもたまたま見ていたのです。そうしたら日系3世らしい、十何歳かの若い女の子が、日本語で覚えた歌をたどたどしく一生懸命に歌っていたのです。その子の名前を聞いてびっくりしたのですが、「キク」というのです。明治の名前ですよ。ということは、やはり昭和の時代をバイパスして、明治がペルーに残っていたのだな。つまり、フジモリさんのリーダーシップというのは、もしかしたら明治の日本人が持っていたものなのだというように、その時思ったのです。「キク」という名前には驚きました。今、キクなどという名前を10代の日本人の子が付けられたら、泣いてしまいますよ、あの時のNHKのど自慢、NHKの人に頼めば出てくると思いますけど、僕はテレビをつけて「なんだこれは」とびっくりしましたね。それで、そういえば何年か前に、そういう記事を新聞で見たなと思い出して、「ああ、ペルーでは明治の日本人の遺伝子が残っているな」「だからフジモリさんのような人間が出来たのだな」と思ったのです。だから、日本人だから駄目とか、そういうことではない。不思議な経験をしましたね。
●リーダーシップに必要なのは意識づけとそのための教育
―― やり方次第ですよね。
齋藤 だから、日本人が出来ないとか、諦める必要は全然ないと思うのです。まず、そこに意識を持つということ。意識を持ったらどうしたらいいかということで、少しでも取り組む。私は最終的には、教育だと思います。だから、原敬がすごいということを知っている国会議員がほとんどいないというところに問題があるわけです。
―― 最高の立法府の中に、そもそも原敬を知らない人が徘徊しているわけではないですか。
齋藤 そうですね。名前とか、「日本で最初の平民宰相です」とか、そういう教科書に書いてある歴史的なことは知っていると思いますけれど。しかし、いかに原敬が日本の転落を食い止めるために努力したかとか、そういうことをどれだけの人が知っているのかなと思うのです。
―― 多分、ハイエンドの教育を受けた人のコミュニティの層が、東京はものすごく薄いと思うのですよね。政治に限らず金融でも、経済でも、あらゆるジャンルでそうだと思います。少ししかいなくてすごく薄い。多分これが、ニューヨークとかシンガポール、ロンドンなどと違うところだと思うのです。ニューヨークに行ってフラフラ歩いて、朝飯や昼飯を食っているだけで賢くなるという感じがあるではないですか。東京にいてもあまりそういった賢くなる感じがないですよね。
●フランスに見るエリート教育に対する意識づけ
齋藤 これも官僚の時に調べて、少し本に書きましたが。フランスはエリート教育をしています。イギリスもドイツも、もちろん皆やっているのですが、フランスのエリート教育というのは大学教育が充実しているのです。グランゼコールというエリート養成学校を作って、全国から優秀な人材をそこに入れるわけです。そのグランゼコールの入学試験というのが、一回何かの本で読んだのですが、学校によっていくつかあって、100メートルを何秒で走るかというのもチェックされるのです。エリートは体力がなければいけないということです。
それから、試験問題が「労働とは何か」、そういう試験問題です。知識ではとても対応できない。
―― 知識があるだけでは書けないですね。
齋藤 どれだけ深...