●保守とリベラル、あるいは政治的な左右の軸を考える
今回は、保守とリベラルというお話をします。
これは、政治的な左右の位置を表す言葉で、最近では保守やリベラルが何を意味するのかが論じられます。保守主義とは何かというと、エドマンド・バーク(イギリスの政治思想家)の話から始まることが多いのです。これは、思想史的には確かに正しいですし、バークからの引用を用いて保守主義を分析するのは間違ってはいません。けれども、現実政治を考えるときの定義としては、それでは不十分なのではないかというのが、今日の話の出発点になります。
●政策を左右に分ける尺度からマニフェストを分析
やや学問的になってしまいますが、イギリスの政治学者イアン・バッジ氏やドイツの政治学者ハンス-ディーター・クリンゲマン氏たちの研究に、50カ国くらいのマニフェストを過去50年にわたって調べたものがあります。そのときに使われた尺度が、非常に簡単に、左右の軸なのです。それでは、政策を左右に分ける尺度とは何か。右の方は、軍事、自由とか人権(human right)、あるいは立憲主義、効率的な権威、自由経済・自由企業、こういったものを強調するという特徴があります。
これらの項目に基づいてマニフェストの内容を分析し、右から左を引く、言い換えると右の項目を満たす場合はプラス、左の項目を満たす場合はマイナスで数値化するというやり方で位置関係を表しました。その左右の位置関係を表している図がイギリスとアメリカについてありますので、ご覧になっていただきたいと思います。
この図は1997年くらいまでですので、トニー・ブレア首相あるいはビル・クリントン大統領の頃までのものです。この後の時代についての研究もあるのですが、この頃までの図でも概略は分かると思います。この図を見ると、どの選挙でも、イギリスで労働党と保守党はそれぞれ、明らかに違う政策を提示していたと分かります。よく経済学者が、中位投票者のところに政策が寄ってきて、各政党とも同じようなことを言うようになると言います。しかしそれは、明らかに政治的には間違いです。というのは、同じ政策を求めても政党は違う政策だと言います。これは、同じ車を売っても車は一台一台違うものだと言うことと同じです。そういう意味では確かに、イギリスの場合にはブレア首相の時に保守党と労働党は近くなっています。
アメリカの場合にはクリントン大統領の頃、共和党と民主党が近くなるということは確かにありました。
しかし、こうやって左右の位置関係を明らかにすることによって、政党がどういうポジションを取っているか、どんな政策を取っているかが分かります。先程申し上げましたように、左の特徴を表す項目には、社会保障を充実する、経済をコントロールする、ということがあります。右の方であれば、自由、限定的な社会保障、国の生活様式、伝統、社会の調和、法と秩序、といったものを強調します。
●左右を分ける尺度に関する日本の特殊性と、世界的な共通性
政策を左右に分ける尺度を表す項目の中には、日本では不思議に思われるものがあるかもしれません。それは、脱植民地主義ないし反植民地主義のことです。ところがよく考えてみれば、日本では、慰安婦問題や靖国神社問題が、これに該当するかもしれません。アルジェリア問題のようなものはないとはいえ、日本においてもやはり、戦後の植民地・戦争問題はあるのだと思います。
また、左右の分け方に関して少し日本と違うところは、立憲主義が日本では左の特徴ですが、この研究では立憲主義は右の特徴に入ります。人権も日本では左の特徴なのですが、この研究ではヒューマン・ライツは自由と同等であり、右の特徴に位置します。ただ、これを見ていただくと、日本だけではなく世界中で、保守とリベラル、右と左で、主に言っていることの塊にはだいたい検討がつくと思います。例えば、社会保障を拡張する左に対して限定的な右、あるいは自由経済を強調する右に対して経済のコントロールを主張する左、あるいは軍事力を強調する右に対して平和を強調する左、そういう対比はあると思います。
●各国で左右の政党は異なる政策を選挙ごとに訴えてきた
ただし、先ほど申し上げたようにこの研究には次の本も出ているのですが、それでもまだ2010年以降の現象を分析していません。例えば、反EUや移民・難民やポピュリズム、そういう新しい争点を分析していません。実は、この研究の後継グループは、 EU に対してのそれぞれの政党の政策の位置づけなどを測定しています。ただ、それがまだ世界中、あるいは全ての国で調査されてはいないところに、この研究の欠...