●日本経済への自信のなさから、選挙を今やるのが得策と判断
カーティス 今回の解散は、まず消費増税10パーセントの先延ばしというか、「先延ばし」というのは、「もう上げない」という意味だと思いますし、それについていろいろな議論はできます。僕は、やはり予定通り上げるべきだったと思います。ただ、安倍晋三首相は政治家ですから、第3四半期の経済がこれほど悪かったというデータが17日に出ましたが、その時点で、要するにリセッション(景気後退)になっているのです。その中で再度、7、80パーセントの国民が反対している消費税を上げるということは、よほどの自信がないとできません。ですから、彼は今の日本の経済にただ自信がないという意味だと思うのです。
―― 経済に自信がないのですね。
カーティス 自信があれば消費税も上げるし、解散もしません。では、なぜ今解散をするのか。自民党でさえ何のための選挙なのか分かっていません。ですから、高村正彦さんは、念のためにやるという、「念のための解散」と言いましたが、僕は外国のメディアにいろいろとインタビューを受けていますけれども、まず、この「念のため」を英語でどう言えばいいのか、全く意味が分かりません。要は、どうも今選挙をやる方がよく、今やらなかったら、経済情勢はそれほどよくならないのだから、来年も無理だろうと考えたのではないでしょうか。集団的自衛権に関するいろいろな法案を出さなければならないし、あるいは、この原子力発電所の再稼働の問題もありますし、自民党の総裁選挙もありますからね。
ですから、来年は政治的には非常に厳しい1年間になるということで、もう早くやった方がいいと考えたのだと思います。そうすれば、あと2、3年はもう選挙を心配しないで、いろいろな難しいことや厳しいこと、困難なこともやれるというような計算だろうと思います。
●大義名分がなく、テーマが不明確なことが今回の解散と選挙の問題点
カーティス ところが、問題がいくつかあるのです。一つは、そのような理由で本当に選挙をやっていいのかということです。大義名分はなく、ただ、今の経済やアベノミクスがあまりうまくいっていないということに国民が十分気がつく前に、解散して選挙をやってしまった方がいいというのは、有権者に対してはあまり丁寧なやり方ではありません。
それと、もう一つは、この解散と選挙は何がテーマであるのか、これもはっきりしていません。消費税を今の時点では上げない方がいいというのは、民主党も野党もほとんど全部の政党が賛成なのです。ですから、上げる方がよかったという政党があれば、そう思う国民がその政党に票を入れられますが、もう皆が延ばすべきだと言っているのです。これでは争点になりませんよね。
―― ならないですね。
カーティス ならないのです。では、アベノミクスがいいかどうかという争点は、一応成り立ちます。しかし、これが野党の問題点なのですが、「アベノミクスはうまくいってない」と批判はするのですが、では、代わりにこうすればよかったとか、これからこうすべきだということは、何一つありません。ただ批判だけです。その批判だけでも票はある程度取れると思いますが、しかし、政権党になるならば、なりたいのであれば、やはり自分の政策を出さなければいけないのです。ただ、まさかこんなに早く選挙があるとは誰も思わなかったから、その準備が全く不足しています。
●安倍首相や自民党にとってリスキーで、大きなサプライズがあり得る選挙に
カーティス 僕は、安倍さんにとって、この選挙は非常にリスキーな選挙だと思います。今、過半数に対して45議席ぐらいの余裕がありますから、30議席を全て失っても過半数を割ることはないのですから、自民にとってはいいのですが、ただ、例えば、30、35議席も減れば、安倍さんに対しての一種の不信任のような投票になってしまうのです。今せっかく衆議院では3分の2の議席を持っていて、参議院でも公明党と合わせて過半数を持っている。だからこそ今、難しい問題をやれるのです。今度、票が減れば、もっとやりにくくなりますし、自民党の中の安倍さんに対しての批判も強まるでしょう。
この選挙がどのような結果になるのかというのは、まだ解散もしていないので、何とも言えませんが、ただ、分かるのは、1993年に選挙制度が変わって、小選挙区比例代表並立制になりましたが、その後、総選挙があるたびに、ものすごく激しいスイングが行われていますよね。
この前の総選挙の時には、自民党が勝ったわけではなかったのです。あれは、民主党がボロ負けしたのです。「もう民主党政権は駄目だ」という国民が、「ならば自民党に入れよう」ということになったのです。自民党が政権を取った時に、覚えているのは...