●予想と大きく異なったイギリスの総選挙結果
今回、イギリスの総選挙の結果をどう見るかというお話をいたします。
今回の選挙は、保守党、労働党、いずれも過半数を取れないだろうと予想されていました。これは、イギリスの新聞やテレビなどの情報に基づいて、日本のマスコミもそう言っていましたし、われわれも、あるいはイギリス大使館も、過半数はどこも取れないのではないか、そして、取れなくなったときに、どう連立ができるのかという話が議論の的でした。ところが、結果としては、保守党が650議席のうちの331議席という過半数を取ったわけです。労働党が100議席くらい離されていたわけですから、大幅に予想と違ったわけで、これが一つの大きな結果でした。
それからスコットランド国民党(SNP:Scottish National Party)は勝つだろう、躍進するだろうと言われていましたが、これは予想通りでした。また、保守党と連立を組んでいる自由民主党が議席を失うのも予想通りでした。世論調査ではそこそこの支持を得ることができる英国国民党、これはナショナリストパーティーですが、どちらかというと右派で、イギリス、ブリティッシュの方でスコットランド側ではありません。これも議席にはあまり反映されなかったということです。
●予想を狂わせた小選挙区制度
では、なぜ予測が外れたのか。最近は、予測精度はどこの国もかなり高くなっているのですが、こんなに外れた理由は何かというのが、一つ関心があるところです。
一言で言えば、小選挙区制度の効果が現れたということです。「小選挙区制度の効果」という言い方は変ですけれども、例えば、保守党だけではなくスコットランド国民党が、スコットランドで59議席のうちの56議席という大半の議席を取ったことは、実は小選挙区の効果なのです。つまり、各選挙区で票を集約していないと小選挙区では勝てません。50パーセント、51パーセントの過半数の票があれば、議席は確実に1議席確保できるのですが、なかなかそれだけ集中しているところがないと難しいということです。そういう意味では、地方政党の連合体があれば政権は取れるのですが、全国ばらばらで、その地方で過半数以上の議席を取る党同士の連立や連合は、なかなか難しいのです。
●鍵を握ったスコットランド国民党の動き
ただ、今回、小選挙区の効果がどういう形で現れたのかといいますと、ミッドランドから北のスコットランドは、今までは労働党の牙城だったのですが、スコットランド国民党が離れるということで、労働党の議席が減るということは、現象としては多くの人が予想していたことです。
ですが、このスコットランド国民党と労働党が連立を組むのではないかという危機感が、直前の調査で言われたものですから、「それだったら保守党に入れるか」という反応はあったと思います。
これに加えて、つい最近まで労働党の党首であったエド・ミリバンドという人は、あまり人気がありませんでした。この人はいわゆる二世議員です。二世という言い方は変かもしれませんが、われわれの世代ですと、お父さんのラルフ・ミリバンドが書いた本は、資本主義についての、どちらかというとマルクス経済的な本でよく知っています。この人の息子たちであるエドとデイヴィッド・ミリバンド兄弟が労働党にいるのですが、そのミリバンドの若干の弱さが出ました。切れがよくない、ということはよく言われていたわけです。
●票の動きの把握を難しくするさまざまな要因
それから、保守党がなぜ最後に勝ったのかというと、「隠れ保守党がいる」という言い方がされることがあるのですが、これについては、労働党にも隠れ労働党もいるわけですし、あるいは過去の例として、ワーキング・クラス・トーリーということが言われていました。これは、マーガレット・サッチャー首相の時代に言われたことですが、それまでは労働者階級は、労働党に票を入れるのが当たり前でした。ところが、サッチャーの頃、労働者階級なのだけれども保守党、つまりトーリーに票を入れるという、そういう層もいたのです。これは、日本でも小泉純一郎さんが首相の時代に起きた話ですし、アメリカでも黒人が共和党に入れるということがあります。こういう普通の投票とは違う層がいるというのはよくある話なのです。
●精度が問題-イギリスの世論調査の実態
今回、保守党は通常は世論調査に答えるのだけれども、シャイな保守党の人が答えていなかったため、その分のカウントが少なかったのではないかという説明もあります。
ただ、総じて言えばイギリスの調査機関の予測能力は、あまり精度が高くなかったということです。その理由の一つは、650の各選挙区それぞれに1000サンプルぐらいの世論...