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製造業を成長させ中間層形成へ―モディノミクス

期待されるモディ政権、メイクインインディア政策とは

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
モディ・インド首相と握手する安倍総理(平成26年9月1日)
出典:首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201409/01india.html)より
シティグループ証券チーフFXストラテジスト・高島修氏は、インドのモディ政権の「メイク・イン・インディア政策」は的を射ており、推進する上で、国内外ともにいい環境になっているという。それはなぜか。(全3話中第2話目)
時間:11:09
収録日:2015/06/09
追加日:2015/06/18
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≪全文≫

●モディ政権は製造業を重視している


 今日、二つ目の話題として、インドのモディ政権がインドルピーに対して持つ意義について考えたいと思います。

 昨年(2014年)5月の総選挙の結果、インド人民党を主体とするモディ政権が発足しました。インドという国は、第一次世界大戦後から第二次世界大戦後にかけて、マハトマ・ガンジー、ジャワハルラル・ネルーが独立運動を主導し、イギリスからの独立を勝ち取りました。この流れをくんでいる政党にインド国民会議派があります。モディ政権の誕生前も、2004年から2014年にかけてはインド国民会議派の政権が続いていました。10年ぶりに、インド国民会議派以外の政党が政権を握ったのです。

 インド人民党はヒンドゥー至上主義を掲げている政党で、その意味で少々不安な側面もありますが、モディ政権は「寺よりトイレ」という標語を掲げていて、今のところは宗教色を薄める方針で政権を運営しています。ナレンドラ・モディ首相は、首相になる前、グジャラート州の知事をしていました。その時、製造業を誘致することで州の経済を立て直した実績があり、その手腕への期待が膨らんでいる状況です。

 モディ首相が掲げる政策の中で特に注目されるのは、グジャラート州経済を立て直した時と同様、製造業を重視する「メイク・イン・インディア政策」です。現在のインドは、経済構造上、第三次産業に依存する割合が比較的に高い国です。かつてのアメリカや日本、近年の中国などは、農業を中心とした第一次産業から、工業を中心とした第二次産業が立ち上がり、最終的にサービス産業を中心とした第三次産業に移行していきました。インドはもともと第一次産業への依存度が高い中で、第二次産業の製造業あたりが伸びてくる前に、金融、建設、ITなど第三次産業を中心に伸びていきました。日本、アメリカ、中国などとは違う経済発展の道をたどっているのです。

 しかし、そういった中で中間層を形成するには、組織だった企業経営、生産活動を行う製造業の発展が重要です。日本、アメリカ、中国と違い、製造業が発展してこなかったことが、インドの中間層の形成が遅れた理由の一つだといわれています。そこで今、モディ政権は製造業を成長させる政策を打ち出しているのです。


●インドの人口動態上の三つの強み


 今のインドを取り巻く環境を考えてみると、モディ首相がどこまで意図しているか分かりませんが、メイク・イン・インディア政策は的を射た政策だと思います。

 インドの国内事情としていえるのが、労働資源、つまり人口が豊富であることです。インドの人口を考えるときには三つのポイントがあります。一つ目に、全人口が現在約12億人で、中国に次ぐ世界第2位であること。しかも、中国と違い、インドの人口は今後も増えていき、おそらく2030年代には中国を抜いて、世界第1位の人口大国になると予想されています。

 二つ目には、人口が伸びるだけでなく、16歳から65歳までの生産年齢人口比率が上昇していくことが挙げられます。中国の生産年齢人口比率は、今ちょうどピークアウトしようとしているところです。そのため、今後の中国の経済成長率は、現在の10パーセントから、場合によっては7パーセントか、6パーセントに下方屈折するのではないかといわれています。過去、日本やアメリカで生産年齢人口比率がピークアウトした時、すなわち日本は1990年頃のバブル崩壊、アメリカは2008年のリーマン危機の時には、どちらも大きな経済的転換が起こっています。今の中国にも、このようなことが起こるリスクがあります。

 インドで生産年齢人口比率がピークアウトするのは、25年後の2040年前後だろうと考えられています。ちょうど今、中国で生産年齢人口比率がピークアウトしようとしていますが、25年前の中国は1990年代です。単純比較はできないものの、生産年齢人口の動向からいえば、インドの現状は1990年代の中国に近いのです。労働資源がさらに投入されていく可能性が高いことが、インドの人口動態上の二つ目のポイントです。いわゆる人口ボーナス期が、あと25年ほど続くのです。

 三つ目のポイントは、「ルイスの転換点」がまだ遠いことです。これまた中国で話題になっていますが、ルイスの転換点の「転換」とは、農村部から都市部への労働人口の移転のことです。先ほども少しお話しした通り、産業構造上、インドは長い間、第一次産業に依存しており、経済的比率では10パーセント前後まで下がってきたものの、労働人口は依然として5割近くが第一次産業に就業しているといわれます。つまり、農村部から都市部へと労働人口を移転させていく余地が大きいのです。これがインドの人口動態上のもう一つの強みといえるでしょう。

 ただし、生産...
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