●ユーロドルの上昇もそろそろ過剰領域という読み
一方で、ユーロドルはどうかというところに話を移しますが、今見ていただいているグラフは、赤い線で実際のユーロドルの動きを示しています。一方、青い折れ線グラフで示したものは、ファンダメンタルズモデルに基づくユーロドルの推計値ということになってきます。私はシティグループのG10FXストラテジーというグローバルなチームで働いているのですが、このモデル自体は実は私が作ったものです。私のロンドンの同僚も「このモデルはいいね」ということで、チームのモデルとして採用されています。ドル円のモデルももちろん採用されているのですが、このユーロドルのモデルもチームのモデルとして採用されているものなのです。
これに基づくと、現在の推計値が大体1ユーロ1.03ドルぐらいということになってきます。実際のユーロドルは前回申し上げました通り、1.04ドル台から足元1.11ドル、1.12ドルぐらいまで上がってきていて、ユーロ高になっています。ですから、このモデルの推計値よりも0.1ドルぐらい、ドル円でいうと10円ぐらい、今ユーロの過大評価になっているわけです。ドル円のモデルと同じように、ドル円に引き直せば10円程度のこういった過大評価、あるいは過小評価は、ひっきりなしに発生するものですから、今の状況に、あまり大きな違和感はありません。ただ、そろそろユーロドルの上昇は過剰領域に入ってきたかな、という見方をしているところです。
●ユーロドルモデル分析のための6つの変数
ユーロのモデルはどういった変数から成り立っているのかというと、前回示したモデル分析の一覧表の下段にあるユーロドルのモデルの決定係数や、t値、p値を見ていただくと、実はドル円よりも信頼度の高いモデルであることがお分かりいただけます。ユーロドルに関していえば、1番目から6番目まで6つの変数を持っています。1番目が米独長期金利差、つまり10年金利差で、これはインフレを加味しない名目金利差です。2番目がユーロドルのベーシススワップですが、これは通貨スワップ市場における米ドルのプレミアムと考えてください。3番目がFRB(連邦準備制度理事会)とECB(欧州中央銀行)のバランスシートを対比させたもので、これもドル円のモデル分析のところでもお話ししましたが、量的緩和の反映の部分です。4番目がアメリカとヨーロッパの経常収支格差で、この値もやはり1年先行させて入れています。5番目がユーロ圏の交易条件で、輸出物価を輸入物価で割ったものです。6番目に新興国の外貨準備の増減というものを入れています。
もともとこのモデル分析は、1番目から5番目の5つの変数をモデルとしてつくっていました。ユーロ圏の経常黒字が増えたにもかかわらず、ユーロ高にならずユーロ安になったことによって、表面的にはモデルの正確性、信頼度が高かったのです。しかし、統計的に少し誤差が発生し始めて、新しい変数を入れる必要が出てきたということです。
要は、その時に4番目の経常収支要因をモデルから外してしまうことも一つの選択肢だったのですが、それを外してしまうと2016年の円高のような動き、つまり経常収支からくる円高の動きが始まったときに捉えられなくなってしまうのです。ですから、経常収支要因を残したまま、それをオフセットしている要因がないかということをずっと探していった結果、6番目の新興国の外貨準備の増減というものが出てきたということです。
●新興国の外貨準備増加時のオペレーション
この新興国の外貨準備の増減の代表例として、今見ていただいている青い折れ線グラフが中国の外貨準備を示したものになります。長期的に中国の、もしくは新興国の外貨準備は増加傾向をたどりまして、2014年にピークアウトした後、この2~3年は減ってきているという状況にあります。
外貨準備が増えるときに中国や韓国、マレーシアといった新興国の外貨準備の運用担当者は、どういったオペレーションをするのかというと、外貨準備が増えるということは例えば中国の例でいえば、中国元を売って米ドルを買って外貨準備で積み上げていくことで、韓国の例でいうならば、韓国ウォンを売ってドルを買って外貨準備を積み上げていくということです。
ところが、新興国の外貨準備は日本と違い、買ったドルをそのままドルで持ち続けることはなく、いくつかの通貨によるポートフォリオを組んでいるのです。例えばドルを50パーセント、ユーロを20パーセント、円を10パーセント、ポンドを10パーセント、豪ドルを10パーセント、このようなポートフォリオを組んでいます。そうすると外貨準備が増えてドルを買うと、100買ったドルのうち、ポートフォリオで持つドルは50しかありませんから、残りの50はドルを売って、20はユーロを買って、10は円を買って、10はポンドを買...