●オバマ政権とはまったく異なるスタンスを示した
シティグループ証券で為替のリサーチを担当している高島修です。今日は、アメリカ・トランプ政権になって通商政策が大きく変化していますので、通商問題とそれが為替相場に与える影響についてお話しします。
大きく分けて3つの観点から話そうと思っています。今回、トランプ政権の通商政策がどのような形で変化してきているのか。それがドル円にどういった影響を与えるのか。これが1点目です。2点目は、1980年代、1990年代に熾烈化した過去の日米通商摩擦から示唆を得ながら、通商摩擦のドル円への影響をお話ししたいと思います。3点目は、こうした日米通商問題が中国・人民元にどのような影響を及ぼすのか。また、それが回り回って、日本や日本銀行(日銀)の経済政策にどういった影響を与えるのかをお話しします。
まずは1点目のアメリカの通商政策の変化についてですが、この3月1日に、アメリカ通商代表部(USTR)が毎年出している通商政策に関する報告書が議会に提出されました。トランプ政権初の報告書です。その中で、1年前のオバマ政権とはまったく異なるスタンスが示されたのですが、これが実に驚愕すべき内容でしたので、スライドで説明していきたいと思います。
USTRは、今回、通商政策のアジェンダとして4つの課題を掲げています。1点目は、「Defending Our National Sovereignty Over Trade Policy」というもので、「通商政策における国家主権を守る」という意味です。ここで驚きだったのは、WTO(世界貿易機関)の判断がアメリカの利益にならない場合、WTOの判断に従う必要はないという考え方を示したことです。WTOは、1995年にGATTが改組されたものです。GATTは戦後、アメリカを中心にしてつくり上げていった関税貿易協定の枠組みでした。戦後すぐに創設されたブレトン・ウッズ機関、つまりIMF、世界銀行(世銀)と並んで、GATTが戦後アメリカの経済覇権を担う重要な枠組みだったのです。USTRは、そのGATTが改組したWTOの決定に必ずしも従う必要はないと強調したのです。戦後の枠組みをアメリカ自らが崩そうとしている、精算しようとしている印象さえ受ける宣言でした。
●トランプ政権の通商政策は相当のタカ派である
2番目のアジェンダは「Strictly Enforcing U.S.Trade Laws」で、要はアメリカの通商法をより厳格に実施すると言っています。...