●人民元と米ドルのリンク
おそらく日米両国が問題視してくるのが人民元問題です。これが今日の三つ目のテーマです。まず重要なポイントは、人民元が米ドルにリンクしている通貨だということです。
今見ていただいているグラフでは、人民元の対米ドルでの上げ下げを、赤い線で示しています。上に行けば行くほど元高ドル安、下に行けば行くほど元安ドル高を示しています。一方で、ピンク色の線は、米ドルのみならず、円・ユーロ・韓国ウォンをはじめとしたアジア通貨、つまり中国の貿易相手国に対する、全体としての人民元の動きを示しています。また、青い線は、米ドルの通貨指数の動きを示しています。
これを見ると、ピンクの線と青い線、つまり人民元と米ドルの通貨指数が、ほとんど平行して動いてきたことが分かります。すなわち、人民元は米ドルに対して多少上がったり下がったりするのですが、その変化幅が基本的にはあまり大きくありません。したがって、人民元は米ドルにリンクしており、米ドルが円やユーロ、韓国ウォンをはじめとしたアジア通貨に対して上昇するときには、人民元も円やユーロ、アジア通貨に対して元高になる。逆にいうと、米ドルが円やユーロ、アジア通貨に対して下落するときには、米ドルにリンクしている人民元も円やユーロ、アジア通貨に対して元安になる。こうした関係が示されています。
●人民元の切り下げとアメリカにおける人民元問題
足元は米ドル高の局面にありますから、放っておくと基本的に人民元も米ドル高に伴って、円やユーロやアジア通貨に対して元高になってしまいます。そうすると、中国の輸出競争力が削がれてしまいます。
輸出競争力の低下を避けようとした、非常に象徴的な動きが、2015年8月に発表された、人民元の対米ドルでの切り下げでした。この時、中国政府は、「ドル高に伴う円安・ユーロ安・アジア通貨安に、中国の人民元を調整するのだ」と明言しています。その結果として、「人民元が対米ドルに対して下落してくる」という事態が発生します。この米ドルに対する元安が、アメリカにおいては政治問題化しやすいのです。
よって、おそらくアメリカにとって円安は、あまり大した問題ではありません。しかし、円安によって韓国ウォンをはじめとしたアジア通貨も連れ安になり、その結果、中国が対米ドルで元安誘導をしようという話になると、アメリカの政治ストレスは相当強まります。アメリカ政府・通貨当局から日本政府にも、「あまり円が安くならないように政策をやってほしい」という要求がおそらく強まるものと考えられます。
●中国からの資本流出
こうした中、足元の事情を複雑にしているのが、中国から海外へ、非常に強い資本流出圧力が発生しているということです。今見ていただいているスライドは、海外から中国への資本流出入が毎月どれだけの規模で起こっているかを、赤い線で示しています。これは左側の軸を使っていて、ゼロから上のところが、海外から中国にお金が入ってくるということ、ゼロより下のところが、中国からお金が抜け出しているということを示しています。
実は、海外から中国への資本流入がピークになったのは、2014年1月でした。この時、元が対米ドルでの一連の高値になっています。その後、米ドル高の動きを考慮した中国は、次第に元相場を米ドルに対して下落させる、という方針に転じていきました。それに伴って、海外から中国へ流入するお金がガクッと減って、2014年の後半以降はむしろ、もともと中国に入り込んでいたお金が、中国から海外へ逃げ出す格好になってしまいました。要するに、元が米ドルに対して安くなる前に、早く元の資産を売ってドルの資産に換えよう、という動きが強まっているということです。
ここで思い出していただきたいのですが、先ほどご説明した通り、2015年8月に元を米ドルに対して切り下げた理由として、中国政府は、ドル高に伴う円安・ユーロ安・アジア通貨安の結果、輸出競争力が低下しているということを挙げていました。すなわち、こうした資本流出が続いている理由、そしてその結果、中国の人民元が安くなってしまう理由の一つは、円安・ユーロ安・アジア通貨安だということになってきます。
●アメリカの人民元政策
アメリカからすると、元高を中国に飲ませたい場合には、円安・ユーロ安・アジア通貨安を放置しておくことはできません。放置しておけば人民元も安くなり、輸出競争力の観点から、元が切り下げられていくでしょう。こうしたエクスペクテーションが、中国の人たちの間、もしくは中国企業、投資家の間で生まれてしまえば、資本流出はどんどん加速してしまいます。
こうした状況下では元高は実現しませんから、アメリカとしては、円安・ユーロ安・アジア通貨安を止めたいのです。そこで...