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なぜ外貨準備が増加するとドルが売られるのか?

外貨準備の世界的状況(2)ドル売りの動向とその構造

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
シティグループ証券チーフFXストラテジスト・高島修氏によれば、2017年1月から2018年1月の1年間において外貨準備は増加しており、それがドル売りの傾向をもたらすという。各国のリザーブマネージャーのドル売りと他通貨買い戻しがその理由である。ただし、スイスは例外的にユーロを買うため、注意が必要である。(全3話中第2話)
時間:15:01
収録日:2018/03/02
追加日:2018/04/26
≪全文≫

●外貨準備の通貨シェア変更における通貨売買量の試算


 続いて、この外貨準備がなぜドルを売るのか、という話に入ります。

 まずここで確認頂きたいのが、11.4兆ドルに達している世界の外貨準備の中でどの通貨が保有されているかです。これを示したグラフが今、見ていただいているものです。この中では、青が米ドル、緑がユーロ、赤が日本、紫が英国ポンド、黄緑が豪ドル、オレンジがカナダドル、ピンクがそれ以外の通貨です。その他、薄い緑の部分がありますが、これはIMFに報告する外貨準備の通貨構成を開示してない国の、不明分を示したものです。この不明分を除くと、2017年9月の IMF の外貨準備に関する最新データで、外貨準備が保有する通貨としては 米ドルが63.5パーセント、ユーロが20パーセント、円とポンドが4.5パーセントずつという数字が出ています。カナダドルと豪ドルは更に少なく2~3パーセントあたりです。

 このような外貨準備によるドル売りは、1つには通貨比率の構成の変更から出てきます。もう1つは外貨準備残高の増減から、オートマチックに売買をするオペレーションがあります。この2つから「リザーブマネージャー」と呼ばれる外貨準備(の管理担当者)によって「ドル売り・ユーロ買い・円買い」、もしくは「ドル買い・円売り・ユーロ売り」といったものが発生します。

 この中で通貨シェアの変更に伴う売り買いがどれくらいあったかを計算してみます。これを計算するにはIMFが発表する外貨準備の統計から為替変動の影響を調整した数字を出す必要があります。そうすると、通貨を保有している各通貨の残高を見て開示されたものでないと、為替レートの変動の影響は取り除けないということになりますから、ドル、ユーロ、円、ポンド、カナダドル、豪ドル、これらの為替調整、為替相場の変更を調整した後の通貨シェアの変更を試算しました。


●主要通貨間におけるドル売りの実態


 2016年12月の段階で、この6つの合計の残高が7兆4781億ドルありました。2016年12月というのは、この6通貨の中で米ドルのシェアが一番高かったとき時期です。そこから足元にかけて、米ドルのシェアが下がってきていますが、2016年12月の段階では6通貨に占めるドルのシェアが74パーセント、ユーロが16.5パーセント、円が3.5パーセント、ポンドが 3.0パーセント、豪ドル、カナダドルなどその他が3.0パーセントという数字が出ていました。

 そこから為替相場の変動を調整した後の、最新の2017年9月のシェアを推測すると、ドルが69パーセントまで約5パーセント下がっている計算になります。ユーロは19.7パーセント、3.2パーセントの増加という計算になります。円は4.2パーセントで0.7パーセントの上昇。ポンドは3.7%で0.6パーセントの上昇、カナダドル、豪ドルなどは3.4パーセントで0.5パーセントの上昇という数字が出ます。2016年12月の残高にかけますと、この期間に外貨準備によるドル売りが3720億ドルに上っていた計算になります。この間ユーロが2365億ドル、円が549億ドル、ポンドが465億ドル、カナダドル豪ドルが341億ドル、それぞれ買われていた計算になります。

 次の行が、外貨準備の増加によるオートマチックな通貨アロケーション操作に伴う金額です。ここの部分を足した最後の行が、2016年12月から2017年9月に外貨準備による売買がどれくらいだったかを示しています。ドル売りは合計で5298億ドル、ユーロ買いが3880億ドル、円買いが879億ドル、ポンド買いが784億ドル、カナダドルと豪ドルが854億ドル買われた計算になります。アメリカのドルの売りがだいたい5000億ドル超という数字になりますが、アメリカの年間の経常赤字がだいたい4500億ドルですから、こういった外貨準備の通貨アロケーション操作によってアメリカの経常赤字を超えるぐらいのドル売りが発生していた計算になります。

 日本に関していえば、879億ドルの買いですから、日本円に換算すると約9兆円です。日本の経常収支は年間で約20兆円ですから、大きな数字が示されているといえます。ただ基本的には、先ほど通貨シェアについて説明した通り、外貨準備はドルとユーロが大半を占めており、変化から生じる影響としてもドルとユーロにおいては非常に大きな金額が動くということです。今の試算でも、5000億ドルぐらいのドル売りを吸収してきたのが4000億ドル近いユーロ買いになりますから、ほとんどの影響はここに集中的に発生していると考えられます。

 以上、外貨準備通貨アロケーション操作に伴うドルの売り買いがどれくらいの規模だったかということを説明しました。今、先に結論を申し上げましたが、通貨シェアの変更以外で外貨準備が増えたことによって、オートマチックに売り買いをしてい...
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