●世界ではドル安と外貨準備の増加が進んでいる
シティグループ証券の為替ストラテジストの高島修です。今日は、中国をはじめとした外貨準備についてお話しします。2017年1月から1年以上、為替市場においては対ユーロを中心に米ドル安が進んでいます。この米ドル安の一つの大きな背景に世界の外貨準備によるドル売りがあるのではないかと言われています。
これは欧米の市場参加者の間においてほぼ共通認識になっていますが、この外貨準備の動向について日本ではあまり知られていませんので、今回は外貨準備の世界的な状況をご説明するとともに、なぜ世界の外貨準備がドルを売るのか、外貨準備額が増加した理由を話そうと思います。
●世界の外貨準備の残高推移と勢力図
今ご覧頂いているのはブルームバーグの推計です。世界の外貨準備の残高の推移を示しています。基本的には中長期的に増加トレンドをたどってきたのですが、2014年に12兆ドルに達したところで減少に転じ、2017年1月には残高が11兆ドルを少し下回っていました。そこがボトムになり、2018年3月にかけて世界の外貨準備残高は増えてきて、現在約11兆4000億ドルになっています。過去1年間で約6000億ドル増えた格好です。
この外貨準備をどの国々が保有し、近年どのように残高もしくはシェアが変化したのかを示すのが今、見て頂いている一覧表です。世界で2000億ドル以上の外貨準備の保有国を、2018年1月段階で多く保有する順番に並べています。1位は中国で、数字上は3兆1620億ドルほど持っています。日本がその約3分の1で1.2兆ドルほど保有しています。そして、スイスの7000億ドル強、サウジアラビアの4000億ドル強と続きまして、その後、台湾、香港、韓国、インド、ブラジル、ロシア、シンガポール、ユーロ圏、タイの順番で並んでいます。
この数字は外貨準備の中から金を除いた数字で、米国と英国は今お話しした国々に比べ、金を除いた外貨準備の保有残高は極めて少なくなっています。アメリカは相当金を持っていますので、金を入れるとまた順位が変わりますが、大まかな世界の外貨準備の勢力図です。並べてみて、まず1位・2位の中国・日本はイメージ通りでしょうが、おそらく皆さんが意外に感じるのは3位にスイス、4位にサウジアラビアがあることでしょう。
●中国、サウジアラビアの外貨準備の背景
これらの国々の外貨準備の増減を国別に見たグラフがいくつかあるのですが、今見て頂いているグラフは、世界の四大外貨準備保有国である、中国、日本、スイス、サウジの残高推移を示しています。このグラフの左側の軸を使っているのが中国と日本です。軸の一番上が 4500と出ていまして単位が10億ドルですから、4.5兆ドルを意味します。一方でスイスとサウジアラビアは右側の軸を使っています。一番上が900と出ていまして、単位はやはり10億ドルですので、9000億ドルまでこの軸で示しています。ですから、右側の軸は左側の軸に比べて5分の1のサイズで示してあることになります。
こうやって見て頂くと、中国の増減が非常に大きかったことが示されているとともに、右と左とで軸は違いますが、サウジアラビアの外貨準備の条件が多様な動きをしてきたことが分かります。要は、中国をはじめとした新興国経済が好調な時、中国の外貨準備も増えながら原油価格が上昇していましたので、サウジアラビアの外貨準備も増えていました。一方で中国をはじめとした新興国が変調を来して、中国の外貨準備が減り始めた時に原油も下がっていたので、サウジアラビアの外貨準備残高も減っていたことが示されています。
ところが2017年1月くらいに中国が外貨準備の減少に歯止めをかけ、増加に転じてきています。サウジアラビアもそれと共に外貨準備の減少が止まってきた、というのが2017年半ばぐらいからの動きになります。これは中国をはじめとした世界的な経済環境が改善し、原油価格が下落から底入れ上昇に転じてきたということが1つの理由です。それとともに、サウジアラビアでは歳出カットなどで財政健全化をすすめる動きが、若い指導者のもとで始まろうとしています。
こういった中で財政状況を再建するに伴って、支出が減ってきますから外貨準備の減少も止まるということが起こっている状況です。ここの部分がまず1つ押さえておくべきポイントと思います。
●一本調子で増加するスイス
それと同時にこのグラフでは、サウジ、中国が比較的アップダウンが激しいのに対し、スイスの外貨準備がほぼ一本調子で増加してきたことが示されています。スイスは2011年に、自国通貨であるスイスフランをユーロにペッグする政策を取り、金融緩和をしながら為替介...