●為替相場の予想を裏切った?トランプ勝利のドル高・円安
皆さん、こんにちは。シティ証券グループで為替相場の市場調査を担当している高島です。
11月8日のアメリカ大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ候補の勝利という予想外の結果になりました。下馬評では、民主党のヒラリー・クリントン候補が勝つという見方が優勢だったのですが、トランプ候補が地すべり的な勝利を収めたわけです。これを受けて、為替相場ではドル高・円安が進んでいます。それが何を意味しているのか、どういう背景があるのかということを説明していこうと思います。
論点の一つ目は、今回のドル高・円安の背景です。事前予想ではヒラリー・クリントン優勢ということで、「クリントン勝利の場合はドル高、トランプ勝利ではドル安」という見方が大半でした。なぜかというと、トランプ候補の政策は非常に不透明感が高いことが要因として挙げられます。そのため、企業や投資家たちはリスク回避志向を強めて、アメリカの株が暴落する。アメリカの金利は低下し、それに伴ってドル安になる、という見方でした。
●大統領選後のシナリオは、議会との組み合わせで考える
そうした見方に対して、私自身はどういうシナリオを提示していたか。まず、クリントン候補が勝った場合においては、年内のドル円には103~106円のコア・レンジを推定していました。「あまり下がらないが、大きくドル高・円安になることもない」という見方です。
一方、トランプ候補が勝った場合は瞬間的に100円ぐらいまで下落する。その後の展開は、共和党がアメリカの議会を押さえられるかどうかに大きく左右されるという見方に立ちました。ポール・ライアン議長の率いる下院では共和党勝利が濃厚と言われていましたが、上院では共和党と民主党のどちらが多数派になるかは五分五分だと言われていたのです。
民主党が上院を押さえた場合のシナリオは、下院が共和党、大統領がトランプ氏であっても、ドル円は100~104円ほどで上値の重い展開が続き、年明け以降には100円を割り込む動きが想定されるということです。もし上院・下院とも共和党が押さえれば、共和党の大統領であるトランプ候補と議会の間に「ねじれ」がなくなります。これにより、トランプ候補が主張している減税政策をはじめとした財政政策が実行される可能性が高まるため、アメリカの金利は上昇し、ドル円も急速に反発するという見方を示していました。つまり、共和党が上下両院とも議会を押さえるケースでトランプ候補が勝った場合には、一旦100円に下落した後、108円ぐらいまで上昇するというのが、私自身の年内予測だったのです。
このような見方は比較的少数派だったと思いますが、実際のドル円はわずか4日間で108円と、私が示していた上値メドのターゲットを達成し、今(11月17日現在)109円前後で推移しています。ドル円相場では、長期的なトレンドの中で一度修正局面が始まると大体10円ぐらいは動くものです。今回は100円前後から反発局面に入っていますので、ドル円の上値メドは110円ぐらいから、少し上放れしても112~113円ほどではないかという見方をしています。
●クリントンが勝った場合、大きくドル安に行くのではという懸念があった
ご覧いただいている一覧表は、トランプ候補とクリントン候補の政策の主張、また現実的に実現できそうな政策について、どのように考えていったかをまとめたものです。一般的には、トランプ候補やクリントン候補が何を主張しているのかに注目が集まりがちですが、その中で現実的に実行可能なのは何かというのは、アメリカの議会情勢によって随分と異なってくるということです。
今回は、たとえクリントン候補が勝利しても、少なくとも下院は共和党が押さえる可能性が高かったのです。この数年間、民主党のバラク・オバマ大統領が苦しんできた議会とのねじれが解消する見込みは少なかったということです。そうなると、クリントン候補が主張していた社会保障制度の拡充のような財政政策が実現する可能性は少ないのです。
財政が健全な状況を保つことは、長期的にはドル高要因になります。しかし短期的に見ると、財政刺激を欠くがゆえに金融政策面では現在のFRB(連邦準備制度理事会)による緩和政策が長期化して、むしろドル安に傾いてきます。クリントン候補が主張する財政刺激策が実現しないことを考慮すると、短期的にはFRBの緩和によるドル安が継続しやすいという見方をしていたわけです。
もう一つ、私自身は、クリントン候補が勝った場合には「ひょっとしたら、ドーンとドル安に行くのではないか」という懸念を持っていました。なぜならば、クリントン大統領が実現した場合、今FRBで最もハト派だと言われているラエル・ブレイナード理事が、財務長官の有力候補に挙...