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膠着状態が続くTPPの行方は?

難航するTPP交渉~膠着状態の経緯と原因、今後の展望を考える~

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
出典:内閣官房ホームページ(http://www.cas.go.jp/jp/tpp/)より
安倍内閣が成長戦略の要とみるTPP。昨年の交渉参加表明以来、大揺れに揺れている原因はどこにあるのか。そして、主導するアメリカの要求に日本やアジア諸国はどう歩み寄るのか。TPPの成り立ち、日本の参加や交渉プロセスを辿りながら、島田晴雄氏が解説する。(島田塾第109回勉強会 島田晴雄氏講演『日本経済は果たして、どこまで成長出来るのか』より:全14話中5話)
時間:14:43
収録日:2014/01/14
追加日:2014/03/13
≪全文≫
次はTPPという、とても重要な問題を取り上げます。
先日、菅(義偉)さんが島田塾へ来られたときに、「TPPを、われわれは最重要課題だと位置づけている。なぜなら、TPPに入ることで市場が確保されるからだ」とおっしゃった。入らないと、メンバー国から疎外されて市場が手に入らないわけです。
それから、TPPはつらいです。例えば農業や医療が相当な影響を受けます。影響を受けるなら勝てるものをつくろうじゃないか、と外圧が働く。「勝てる農業を作ろう」「勝てる医療を作ろう」という自己革新が起きるきっかけになるだろうと、菅さんや安倍内閣はとらえ、TPP成長戦略の要と位置づけています。
さて、皆さんはTPPをよくご存じだろうと思いますが、復習のために成り立ちを振り返りましょう。

●TPPの成り立ちは、ニュージーランドの貿易自由化から始まっている


1990年代の半ばに、ニュージーランドがやろうと言い出したのがきっかけでした。
ニュージーランドは、当時は高い関税を付けた貿易保護国でしたが、こんなことをしているとジリ貧だと気がついた。ちょうど隣にはオーストラリアという大きい国がある。ここと組んで貿易を自由化する必要があると判断したのです。
オーストラリアに申し出ると応じてくれました。そこで今度は、2国ではしょうがないので、シンガポールにも声を掛けた。「リー・クアンユーさん、一緒にやりませんか」と言ったら、「おお、いいね」と言うことになって、それがTPPの原形です。
そのときは太平洋の国々ばかりだったので、「パシフィック・ファイブ・カントリーズ(Pacifc 5 Countries)」という意味で「P5」と呼んだのです。実際にはオーストラリアは入らなくて、ニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、チリのみんな小さい国ばかりが参加して、「P4」だったのです。ただ、小さい国だけにすぐに見通しが利くので、非常に高度な貿易協定を作りました。
その経緯を見ていて、最初は「嫌だ」と言いながら、「利用してやろう」と思って入ってきたのが、超大国のアメリカです。この高度な仕組みにみんなを引き込もうということになり、TPPとしてのスタートを切りました。いま参加している諸国のGDPを全部合わせてみると、アメリカが半分から6割を占めます。日本が入ると、9割近くになります。他はもう小さい国ばかりですから。
だから日本に「入れ」「入れ」とアメリカは言ってきた。菅(直人)さんはいち早く「入る」と答えましたが、彼は言うことは全部言うけど、何もやらない人です。安倍政権になって、反対が多くて入れない状態だったのが、菅さんが後ろを支えたので、「入る」ということになりました。
日本がTPPに入った今、TPPは世界の貿易自由化の原動力になったと世界中が見ています。11月末には韓国が入ると言い出しました。台湾は、本当に入ると今、考え中です。そして、中国はずっと経緯を見ています。これが、日本が加入することになってからの動きです。

●安倍総理が水面下で“聖域”保全を調整し、交渉参加へ


日本での決定的な場面は、2013年2月22日のワシントン日米首脳会談です。安倍総理は、国内では入りたい意思を表明していましたが、日本には農業という怖い分野、“聖域”がありまして、そこには手をつけられません。
ところが、TPPは「高水準の自由化」のアレンジですから、“聖域”は許さない考えが基本にあります。それは分かるけれども、「特別な“聖域”だけは…」というのが日本の立場でした。
ホワイトハウスでの安倍さんは、オバマさんを目の前にした昼食の席で「“聖域なき関税撤廃”を前提にしなければ、日本は入れるのだが」と、ガンガン言ったらしいです。そうしたら、大統領が「だったら、共同声明にそう書いたらいいよね」と、チラッと言ったらしい。それで、すかさず書いてしまおうということになりまして、当日の午後の共同声明では、「すべての関税撤廃を前提とはしない」という文章になりました。

●「90日ルール」を超えて、7月のコタキナバル会議に参加


「これは、やった!」ということで、国内に帰ってきてからの調整になりましたが、これが難しい。そしてもう一つ、アメリカには「90日ルール」があります。米国では議会がうるさく、議会で90日間議論を続けるという決まりです。
 結局3月に入ることになったのですが、最初の会議に招かれたのが7月下旬でした。コタキナバルというマレーシアのリゾート地で開かれました。
7月23日に始まったTPP交渉は、21分野の作業部会を置き、各国が議論につぐ議論をする大変なものです。日本からは、各省庁から選ばれたエリート100人が交渉団として出かけました。そこで初めて、代表団は「テキストを見ていい」と閲覧権を得た。それほど何千ページ...
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