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ドバイやシンガポールに見る日本の経済成長の余地

日本経済の成長の本当の可能性はどこにどれほどあるのか

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
今後の日本経済の成長可能性を否定する論者は、高度成長期と対比して人口減少や高齢化を指摘する。だが、果たしてそれらは本当に経済成長を阻む要因なのだろうか?われわれが「失われた20年」で本当に失ってしまったものと、他国の成長事例を探りながら、今後、日本経済が成長していくための新しい需要の根源について迫る。(島田塾第109回勉強会 島田晴雄氏講演『日本経済は果たして、どこまで成長出来るのか』より:全14話中8話)
時間:08:18
収録日:2014/01/14
追加日:2014/03/20
≪全文≫

●人口減少は成長制約か?


これからが、皆さんと一緒に考えたい本題です。日本の現状について復習し、現状を見て、△前後などの判定をつけてきました。では、これで日本はリスクを回避できるのか。目覚ましく3パーセント成長ができるのかというと、このままではとてもできません。
では、できる可能性はあるのか? 多くの人が考えているのは次の図式です。
今の日本は人口が減っているが、かつて高度成長の頃は人口がどんどん増えていた。それが平均10パーセントもの高度成長を支えていたのだ、と。
というのも経済成長の定義は、「労働力(生産年齢)人口×一人当たり生産性=経済規模」という式で表され、経済成長の伸び率と言うと、人口の増加率と生産性の上昇率を足したものになります。高度成長時代の人口は2パーセント増えていたが、今はマイナス0.7パーセントで減っていて、日本の人口は毎年100万人ずつ消えているのです。それだけで2パーセント以上のマイナスになる。「成長なんて、できるわけがないではないか」という議論があるのです。今日は、そこを皆さんと考えてみたいと思います。

●「失われた20年」に本当に失ったもの


先日、吉川洋先生をこの会にお呼びしてお話を伺ったときに、「高度成長は10パーセントを記録したが、あのときに人口が5~6パーセントも増えたわけではない。2パーセント内外だった。後の7~8パーセントは、経済成長イノベーションだったのです」と、いいことを言っておられました。
当時の日本は若い人がたくさんいました。今はお年寄りばかりで、当時のようにみんなが成長期待を持っていた社会ではないですから、人口が減っていくので悲観的になりますけども、「高齢化する社会の中でイノベーションが起きないという理論的な論拠はないのではないですか」とも吉川先生が言われた。あれは、なかなかの名講演でしたね。
それで、「失われた20年」といいますが、確かに成長率はゼロあるいはそれ以下になりました。しかし、私はこの「失われた20年」で本当に失ったものは何かというと、吉川先生と同じ意見になります。「イノベーションするマインド」が失われてしまったのではないかと考えるのです。

●70年代前半の制度や構造が対応できないほどの状況変化が起きている


今の日本を動かしているいろいろな制度、例えば、政治・行政・教育・社会保障・医療・農業・エネルギー供給・都市インフラ・企業の戦略・意思決定、企業間関係などなど。これらは全部、だいたい1970年代前半に完成しています。つまり、これらは日本が華々しい経済成長をしていたときに完成した制度です。それ以降変わっていないのだが、その後の50年間で何が起きたかを考えてみようよ、ということです。例えば、当時の日本の人口は富士山型ですが、今は逆でしょう。だから社会保障制度などは、根底から変わらなかったら適用するわけがない。変えていないから、適用しないのです。
では、世界はどうなのか。あの頃と比べたら、一番恐ろしいのがエネルギー改革です。
ジェームス・ディーンの映画が撮られた頃は、1バレル1ドル以下です。たった50年で、今は1バレル100ドルでしょう。基礎エネルギー素材の値段が100倍になったら、世界の経済・技術構造が対応しません。だから対応していないのです。また当時は環境問題も人口問題も食糧危機もなかった。今は、全部がそうなってきました。

●人口減少、サービス化の時代にイノベーションの可能性


それでも日本だけが変わっていないから、日本だけが「失われた20年」になる。環境をしっかりとらえてイノベーションしようとしていないからです。
では、イノベーションの可能性はあるのか。
確かに日本は資源がない中で、「唯一の資源」と言われる人口が減少している。製造業には規模の経済性があり、生産性は拡大しているからいいですけど、サービス業はそうはいかない。資源がなく、人口が減少して、サービス化の時代。「ダメじゃないか!」というのが多くの人の意見です。
しかし、世界には同じ条件の中でもものすごく伸びている国が、実はたくさんあるのです。小さくて極端な例かもしれないですが、二つの例を紹介します。

●ドバイが「世界一のインフラとアメニティ」で富裕層を集めた理由


いま「中東の宝石」と言われているドバイという国があるでしょう。この前行って本当に驚きましたが、あそこは石油が一滴も出ないのです。なのに、今は七つ星のホテルがあり、世界最大のタワーが建っている。
もともとあそこは、ベドウィン族のわずかな砂漠に過ぎませんでした。真珠貝を潜って獲るのが産業になっている程度の、どうでもいい場所だったのです。それを「ユーラシア大陸とアメリカ大陸を結ぶ中間点だ」とシェイク首長が言い出して、「ここを通る飛行機は...
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