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8月末がラストチャンス、合意なければTPPは漂流

最終合意見送り~どうなるTPP交渉

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
「TPPは遅くとも2018年に批准される」と、東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏は推測している。それは一体なぜか。伊藤氏がTPPの今後を語る。
時間:13:25
収録日:2015/08/05
追加日:2015/08/13
≪全文≫

●TPP合意は8月末が最後のチャンスだ


 TPPの大きな話題が続いており、常にハラハラする展開となっています。私も含めて多くの人は、7月の終わりにハワイで行われた12カ国の閣僚会議で、TPPは最終合意するだろうと期待していました。実際、私はいくつかのマスコミから、もうすぐTPP合意があるからとコメントを求められたのですが、全てボツになっています。マスコミもTPPがまとまると思っていたわけで、合意延期は驚きをもって見られています。

 TPPの今後について、いくつか大きなポイントがあります。一つには、日本とアメリカのタイムスケジュールの問題があります。アメリカは、来年になると大統領選挙モードになり、議会はほとんど機能しなくなると言われています。アメリカの通商交渉は、合意を議会に知らせてから、承認プロセスに入るまで90日間待つ必要があります。その90日にさまざまな調査を行い、議論してからでないと、議会が承認プロセスに入れないのです。ですから、仮に8月末に頑張って合意が得られても、そこから90日ですから、11月末にならないと議会承認が始まらない。ギリギリのスケジュールです。

 日本は来年、参議院選挙があります。今回の安全保障関連のことで、安倍内閣がかなり支持率を落としている中、来年の参議院選挙に多くの人が関心を持っています。その選挙前の国会で、TPPの議論はあまりしたくない。できればTPPは今年後半の国会で決着をつけ、来年はもう少し国民ウケの良いものを中心に取り組みたいというのが、政権の思惑でしょう。しかし、今のスケジュールを見ると、仮に8月末に合意を得ても、今年後半の国会途中で法案を提出することになりますから、本当に年内にまとめ上げることができるかどうか、微妙なところです。もちろん国会を延長することはできますが、果たしてTPPのために延長するかどうか。

 その意味では、実は7月末に合意できていたとしてもギリギリのスケジュールで、8月末の合意では相当スケジュールが厳しい。ここから先は分かりませんが、大方の専門家は、8月末が最後のチャンスで、それを逃すとおそらくオバマ政権での合意はありえず、TPPは漂流するだろうと考えています。


●8月末に閣僚会合が開かれるかどうか


 では、8月末に合意するかどうかですが、これは微妙な状況です。さまざまな声から分かるのは、アメリカがTPPを相当強引に推し進めていることです。アメリカ国内と議会でかなり厳しい調整をして、大統領に一括の交渉権限を与えるTPA法案を通しているためです。大統領は、オバマ政権の成果としてTPPをまとめたいと考えているのです。

 一方で、マレーシア、ニュージーランド、オーストラリアなどは、まとまるものであればまとめたいけれど、アメリカの強硬なプッシュに対しての反発が強いのが現状です。今回の新聞報道でも、ニュージーランドは、自らの乳製品をもっと日本などに輸入してほしいと主張しています。「今さらそれはない」と日本の交渉官が思うほど、乱暴に主張してきています。またこれも新聞で報道されているように、医薬品開発後の機密保持期間をアメリカは長くしたいと考えていますが、オーストラリアがかなり強く反対しています。この状況で、本当に8月末に閣僚会議が開けるかどうかが気になります。

 国会で言われているのは、8月25、26、27日あたりにASEANの大きな会議があり、それに合わせてマレーシアあたりでTPPの閣僚会議ができれば、8月末に会議が成立するということです。それなら8月末決着の可能性はあると思います。会議を開くということは、ある程度、先に進めるということですから。逆に言うと、8月末に会合が開けなければ、おそらくTPPを年内のタイムスケジュールでまとめるのは難しいでしょう。8月末に閣僚会合が開かれるかどうかが大きなポイントとなります。もちろん、過去にどんでん返しは何回もありましたから、本当に8月末が最終リミットなのか、9月の中頃や9月末ならどうかといえば、何ともコメントできませんが。

 もし8月末にまとまれば、先にお話ししたような政治スケジュールがあるとしても、比較的早い段階でTPPは批准されるでしょう。それには大きな意味があります。なぜかというと、おそらくTPPがまとまれば、いま日本がEUと取り組んでいる経済連携協定も早くまとまると考えられるからです。EUは現在、TPPの進捗具合を注視している段階です。特に、自動車や家電といった領域は、アメリカよりEUの方が関税が高いですから、EUのマーケットにアクセスしやすくなることは影響が大きいのです。もう一つ、もしTPPが早くまとまれば、すでに参加意思を表明している韓国とフィリピンも参加する方向で進むはずです。要するに、おそらく...
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