●まず日本政府が行うべきは、情報の提供だ
今度は、日本の課題を考えてみたいと思います。日本のほとんどの人々、少なくとも新聞の読める知識のある人は、ドナルド・トランプ氏が勝つと言っている人はいませんでした(ジャーナリストの木村太郎さんだけ別ですが)。99.99パーセントの人は、ヒラリー・クリントン氏が勝つと思っていました。そのため、トランプ氏との接点が、全くありません。
私がこれまでお話ししてきたのは、トランプ氏は非常に過激で自己矛盾に満ちた発言をしているけれども、それはトランプ支持者たちがアメリカ国内で最も損をするようなことでした。それに加えて彼は国際関係についても、グローバル主義は駄目だとか、日米同盟など潰れてもいいという発言をしていますから、これは大変なことです。
アメリカから見ても、日本は本当に頼れる同盟相手です。反対に日本から見たら、アメリカは頼れるどころか、全てです。何があってもくっついていく、というくらいの同盟国です。それなのに、トランプ氏のようなことを言われたら、日本の将来が全て否定されるような感じがあります。
それでは困るので、安倍晋三首相は即座にトランプ氏に会いに行きました。とにかく、トランプ氏に情報提供することが肝心です。トランプ氏は、ビジネスをやったり、テレビの司会をやったり、政治家の谷町をやったり、レスリング連盟を買い取ったりと、変わった仕事ばかりしています。だから政治のことも経済のことも、何も知りません。だから、うんと説明して情報を増やし、理解してもらうのです。トランプ氏の周りには、比較的優秀な政策スタッフがつくわけですから、その人たちにも理解してもらうことです。これが、ここしばらくの日本政府最大の力点になるでしょう。安倍首相をはじめ、日本政府はまずそれをやらなければいけないと思います。
●政権移行チームの柱は「家族」
選挙の日から数日たって、トランプ氏はさっそく政権移行チームの編成に取り掛かりました。この政権移行チームは、半分が家族で占められています。長女が大変優秀で、長女のご主人もユダヤ系で大変優秀です。こうした家族がチームの大部分を占めています。なぜかというと、アメリカ政治は裏切りばかりだからです。だからせめて、移行チームくらい本当に信頼できる人たちの方が良いということで、そうなると家族なのです。
だんだん政権の中核人事に入ってきました。そこでは、必ずしもそれほどトランプ氏を批判していなかったけれども、共和党の主流派に近い人たちを入れました(事務局で相当上の立場にあった人も入れましたが)。さらに、非常に過激な思想でトランプ氏を推していた「トランプマフィア」と呼ばれる人たちを混ぜ、政権の中核人事をつくろうとしています。
今後は、諸外国にもトランプ氏の新しい情報がどんどん入っていくでしょう。政権の中核を担う人たちは、現実世界を見て政策を行わなければいけません。そうすると、いつまでもself-defeating(自滅的)なことを言っていたのでは、仕事になりません。だからもう少しまともで、現実的・合理的な政策も出てくるかもしれません。
トランプ氏は、さっそくロシアのウラジーミル・プーチン大統領に電話をしました。プーチン大統領は、トランプ氏が最も尊敬している政治家の一人だそうです。「オバマ政権はひどかったですね。関係改善しましょう」といった話をしたのでしょう。安倍首相ともどういう関係になるか、期待するところは大きいですね。
●アメリカのいないTPPにはメリットがない
この選挙中の発言は、ほとんど暴言の連続です。しかし、全国民・全世界が見ており、一応全部、記録に残っています。よって、これも一種の公約なのです。簡単に消しゴムでは消せません。トランプ氏が、あのような馬鹿げた発言から、もっと現実的でバランスの取れたことに力点を移してくれればいいのですが、そうは言ってもある種の公約として出されていたことの趣旨を、いくら新たに政権移行チームができたからといって、急に変えるわけにはいきません。
もし大幅に変えるとなると、それを信じて彼に投票した選挙民が「トランプ氏はどうしたのか」と思いますから、それはやりにくいのです。そこで日本としては、いかに過激な発言でも、最悪の場合、選挙中の発言がかなりの程度実行されることを前提にして、構想を練っていかなければなりません。もちろん、トランプ氏が良い方に変わってくれれば、それはそれでありがたいことです。そこで、日本に直接影響があることを皆さんと考えてみましょう。
一つ目は1月20日、彼が大統領に就任して仕事が始まるその日に「アメリカはTPPから離脱する」と明言したことです。これはとても明確な公約なので、やらざるを得ないと思います。
TPPに12カ国が入...