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トランプ発言が「日米安保体制」を見直す絶好の機会になる

トランプのアメリカと日本の課題(4)安保体制を見直す時

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
トランプ次期大統領が投げかけたもう一つの大きな課題は、日米安保体制の見直しだ。戦後60年間の日本の基礎は、日米安保と共にあり、それ抜きに現体制を維持することはできない。慶應義塾大学名誉教授・島田晴雄氏は、今こそ日本が目を覚まし、自分の足で立っていくにはどうしたらいいかを、全力で考えるべき時が来たと述べる。(全4話中第4話)
時間:13:26
収録日:2016/11/16
追加日:2016/12/02
カテゴリー:
≪全文≫

●トランプ発言は「自主防衛」の問題を突き付けた


 トランプ氏の「公約」が実現することで生じる、もう一つとても大きな課題は、日米安保の見直しです。トランプ氏は、「米軍が日本に駐留して日本を守ってやっているから、全駐留費を払えとして、それをやらないなら撤退する」と言っています。

 また、選挙戦でこうも言っていました。「ドイツは払っていない、日本も払っていない、韓国も払っていない、サウジアラビアも払っていない。この四カ国はただ乗りをしている。だから全額払え。払わなければ、米軍は撤退する」と。

 別の場所では、「米軍が撤退したら、自分で自分の国を守らなければいけないから、必要なら核兵器を持てばいいではないか」とも言っていました。今までアメリカは、核の傘を日本にかけてくれていました。だから、北朝鮮のような危険な国があっても、アメリカが抑止力になることで、日本は安心できました。しかし、日本がアメリカにお金を払わず、自分で防衛するということなら、「核を使ってもいいだろう」ということです。しかし、さすがにトランプ氏も、この発言は後に取り消したようです。


●日本から米軍が撤退したら自主防衛しなくてはいけない


 米軍が撤退したら、日本は自主防衛しなくてはいけないということですが、ではなぜ、日米安保は過去60年も続いたのか。それは(日本が)自主防衛できないからです。この点を皆さんと考えたいのですが、現代は核時代で、世界の主要国は全て核を持っています。お隣の北朝鮮も持っています。さらに言えば、核ミサイル時代です。

 核ミサイル時代に日本列島を守るにはどうしたらいいか。地図を思い浮かべながら考えてもらいたいのですが、日本はバナナのように細長くなっている国です。発展途上国ではありませんから、高度に産業資源が集積しています。人口も集積して、情報化もものすごく進んでいます。その中枢が、いくつかあります。その中枢で核が炸裂するとどうなるか。人間だったら、脳や心臓を撃ち抜かれたような感じです。一瞬にして死にます。2~3発の核爆弾で、日本は機能停止となります。


●米軍と組むことで機能する核抑止力


 こういう国を守るにはどうしたらいいか。例えば、危険なことをやりそうな国に対して、「発射してみろ」と言った後、発射したとします。そのことが分かった瞬間に、日本側からものすごく高速のミサイルがぶっ飛んでいき、それが相手国に核攻撃をかけ地球上から吹き飛ばすのです。北朝鮮はそうしたことが起こるかもしれない危険な国ですが、そうした対抗手段を持たないと、日本を守ることはできないのです。そして今までは、それを全部アメリカがやってくれていました。

 もし日本が核攻撃をされたら、アメリカの、おそらくワイオミングにある大陸間弾道ミサイルが発射されます。その発射の権限を持っているのは、大統領です(つまり、トランプ氏がその権限を持ってしまうということです)。それを押すと、数発の大きな大陸間弾道ミサイルが相手国に向けて発射され、おそらく20分ほどで到達すると思います。それが落ちると、その国は地球上から吹き飛んで消えてしまいます。「そういうことをされてもいいのか。怖いだろう。ではやらないよね」というのが、抑止力(のロジック)です。

 日本は過去何十年も、そういうことをアメリカと組んでやってきました。アメリカがそうやって、いつも日本を(軍事的に)バックアップしてくれているから、日本は経済に専念できたのです。駐留米軍の費用を日本は払っていないと(トランプ氏は)言いますが、冗談ではありません。確かにドイツは駐留軍の費用の3割ほどしか払っていませんが、日本は約75パーセントも払っているのです。しかしトランプ氏は、その事実を知りません。だから日本の政府関係者は、そのことを説明すると思います(安倍首相も話したと思います)。日本とアメリカの関係は、そういう構造になっているのです。


●駐留費を全額払うと、それはもはや米軍ではない


 仮に、トランプ氏が選挙戦で言っていたように、日本が全額払うことになったとしましょう。ここでいう「全額」とはどういうことか。日本には駐留経費というものがありますが、例えば米軍は、F15とかF22といった戦闘機を持っています。そして沖縄には、東アジア最大のアメリカの空軍基地があります。嘉手納基地です。あそこはF15が主体ですが、F22もあります。これらは世界最強の戦闘機集団です。駐留経費を全額負担するとなると、これらを日本が買うことになりますが、それではもうアメリカ軍ではなくなってしまいます。あるいは、ミサイルの費用も日本が全て払うとなれば、発射に関わる米軍の人の給料を日本が直接支払うことになりますが、それではもはや米軍ではありません。

 では、7割以上の駐留費を払って何...
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