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トランプの経済政策は、アメリカ国民にとって自滅行為だ

トランプのアメリカと日本の課題(2)トランプの政策解剖

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
概要・テキスト
オハイオ州の工業地域(1920年頃)
トランプ次期大統領は、いかなる人物なのか。これまでの情報から見えてくるのは、国粋主義者で孤立主義者だということだ。慶應義塾大学名誉教授・島田晴雄氏によれば、トランプ氏が打ち出す政策案には、まったく経済合理性がなく、結果的にアメリカ人自身の首を締めることになるという。トランプ氏の政策は、“self-defeating”なのだ。(全4話中第2話)
時間:09:48
収録日:2016/11/16
追加日:2016/11/30
カテゴリー:
≪全文≫

●トランプ政策の三つの傾向


 それでは、今まで私たちが見聞きして知っている限られた情報をかき集めて整理し、ドナルド・トランプ氏の政策から、彼を解剖してみたいと思います。

 これまでトランプ氏が発言してきたことをまとめて整理すると、はっきりした傾向が少なくとも三つあると思います。一つ目は、大統領受諾演説でも最初に言ったように、“America first”、つまり「アメリカ第一主義」です。彼は大変な国粋主義者だと言えます。そして排外主義、国際的には孤立主義ですね。二つ目はグローバリズムの否定です。国際協力も否定します。自由貿易協定も否定します。これは非常にはっきりしています。TPPもそうですが、NAFTAという北米自由貿易協定も否定すると言っています。さらに同盟を否定するとも言っています。「日本が金を出さなければ、アメリカ軍は日本から引き揚げるぞ」と言っています。韓国にもそう言っています。またドイツでもそうですが、アメリカはNATOの中心ですから、そうなったら大変です。要するにトランプ氏は国粋主義で国家主義者なのです。

 そして地球規模の発想がありません。さらに、安全を守ることに関して、同盟の意義が全く分かっていません。このように、彼は極めて不思議な人です。これら一つ一つに少しコメントしながら、考えてみましょう。


●経済原則を無視した自滅的「公約」


 彼は何度も何度も「日本や中国に奪われた雇用を取り返す」と言っています。私たちもそれを何度も見ました。これはどういうことでしょうか。オハイオ州が良い例です。オハイオは自動車部品を作るのが主産業で、圧倒的な数の労働者がいます。しかし現在、仕事が足りず、みんな困っているという実情があります。

 そもそも、労働者が仕事をするとはどういうことか。雇用は「派生需要」に関係があります。モノを作る場合、そのモノが売れて、その代金が勤労者に払われます。「派生需要」はここから来ていますが、それは、本来の需要はモノに対する需要だからです。それが「派生需要」として、生産要素である労働者への給料になります。

 ですから、オハイオの労働者たちが仕事を取り戻すためには、彼らが作っている製品の競争力が高くないといけないということです。どういうことか、具体的にいうと、「生産性が高い」「価格が安い」「品質が良い」ということです。そのためには何が必要か。オハイ...
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