●日米首脳会談前後のTPP交渉の顛末
今日4月25日は、偶然ですが、この撮影をする日にオバマ大統領が日本から次の訪問地・韓国に移動するということで、そのオバマ大統領が日本にいる間にTPPの合意ができるかどうかということが大変注目されていました。かなり精力的に日米の政府が交渉したのですが、大変残念ながら最終合意に至らず、この先継続して交渉するということで、私を含めてかなりがっかりした人もいると思います。
ただ、その辺りの背景を申しますと、これは私の個人的な感想ですが、一月ぐらい前までは早期決着はなかなか難しいだろうと思っていました。要するにこれは、アメリカが主張していることと日本が特に国内政治を含めて言っていることの間に相当ギャップがあって、TPPはさすがに大事なのだけれども、交渉がまとまるには少し時間がかかるかなと思っていたのです。
しかし、さすがにアメリカ大統領の公式訪問という大きなイベントが決まったものですから、急きょ一月前から動きが早くなってきました。報道されているように、通商代表のマイケル・フロマン氏が日本に来て、集中的な交渉を甘利明TPP担当大臣とやって、間髪入れずに今度は甘利大臣がアメリカに行って交渉をし、そして今度はオバマ大統領が日本に来る直前に、またフロマン氏が事前に日本に来て交渉しました。その結果、どこまで正しいか分かりませんが、新聞の報道ぶりを見ますと、「砂糖はこの内容でお願いする」ということになり、米と小麦についてもそれなりの合意が出来上がった、と。牛肉はよく分からないのですが、報道ぶりをみると20パーセントとか10パーセントとかいろいろ数字は挙がっているものの、どうやら折り合いがつきそうだとなっています。ただ、なかなか決着がつかないのが豚肉であるという形です。
ですから、オバマ大統領と安倍総理の会談が行われるあたりになって、TPP交渉はかなりまとまるのではないだろうかと期待感が盛り上がってきたものですから、結局まとまらなかったという結果に、非常に失望している人が多いのです。
でも、失望というのは期待していたことができなかったからというより、もともと期待していなかったことが、一瞬期待が盛り上がったのだが、また元の冷めた状態に戻ったということです。そういう意味ではTPPの交渉は今後少し時間をかけてみる必要があると思うのです。
●オバマ大統領のTPP戦略の鍵を握る中間選挙
政治的な日程を考えると、アメリカはこの秋、中間選挙があり、いわば政治の時期に入るので、おそらく中間選挙までに選挙の争点になるような形で日米交渉をすることは難しいと思います。もちろん水面下ではいろいろな議論があるかもしれませんが、なかなか進みにくいだろうと思います。
では、中間選挙後どうなっているのかということは、私はアメリカ政治の専門家ではありませんが、誰が見ても明らかなのは中間選挙の結果、オバマ大統領の政治的な基盤がどうなるかということに依存すると思います。
よく言われているのは、下院はおそらく共和党が主導権を持ち続けるだろうということです。これは現状と別に変るわけではないので、そこはそれでいいのですが、上院はどうかというと、私がいろいろな人に聞いた範囲で判断するに、共和党が過半数を獲る可能性もあるし、民主党が今の過半数維持をするという可能性もある。ここは予断を許さない状況であり、今の段階で中間選挙後の政治がどうなるかということを考えても仕方がないわけですが、いずれにしても秋以降の政治状況がかなり大きな意味を持ってくるということになります。
オバマ大統領のTPPに対する姿勢はかなり悩ましいところがあります。彼自身はもちろんTPPを完成させたいと考えているわけで、これは単にアメリカの産業界にとっての市場アクセスを増やしてビジネスのチャンスを増やすというだけではなくて、いわばアジア、太平洋におけるアメリカの影響力をしっかり確保する、あるいは中国との関係を考えても日本を巻き込んだ形で大きな経済連携協定を持つということは好ましいことと考えているわけですから、彼の政治的なアジェンダの中では今後も続くと思います。
ただ悩ましいのは、オバマ大統領を支えるはずの民主党の中に、非常に保護主義的な姿勢を顕著にしている人がたくさんいることです。特に自動車関連の州の国会議員はアメリカの自動車の権利を守るということで非常に保護主義的な立場を取る人が多いと聞いています。
ですから、皮肉にも結果的にはオバマ大統領のTPPを支えるかもしれないのはむしろ、貿易自由化に比較的積極的な立場が多い共和党の方々なのです。
ところが、共和党の中には、貿易自由化を進めていくことが重要だから、いろいろな例外で関税が残るような中途半端な貿易自由協定は認められない、だから...