●企業はIoTやAIにどう対応すべきか
いまビジネスの世界が大きく動いており、実際の企業経営者の方もなかなか苦労も多いと思います。当たり前かもしれませんが、社会や経済が大きく変動するときは、ビジネスチャンスも多いのだということを改めて申し上げたいと思います。
いま私も深く関わり、時間を使っている活動の一つに、経済産業省の「新産業構造部会」という審議会があります。ここでは、いま話題になっている「IoT(モノのインターネット)」「AI(人工知能)」「クラウドコンピューティング」「ビッグデータ」といった情報技術や利用の拡大が、産業経済のあり方にどういった影響を及ぼすのか、それによっておこる変化に対して日本企業や産業はどのように対応すべきなのかを議論しています。
●世界的金融機関や自動車業界の最大の脅威はグーグルやアップル
先日、たまたま経験したのですが、そのことについてお話します。昼間、世界的な投資銀行のセミナーの講演に行き、終わった後で日本法人トップに近い方と雑談していたら、「ひょっとしたら10年もすると、グローバルの金融機関は全部グーグルにやられてしまうのではないだろうか」と発言されたのです。どういうことかというと、「フィンテック」と呼ばれるITをベースにした金融サービスによって、業界に大きな変化が起こってきているのです。J.P.モルガン、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなどの世界的金融機関にとって最大の潜在的脅威は、グーグルに代表されるIT企業で、そこに置き換わっていってしまうのではと、その方はおっしゃっていたというわけです。
その夕方、今度はある食事会に出席しました。私の隣に座った方は、日本を代表する自動車メーカーの元社長で、いまはもう少し上のポストに移られた方でしたが、その方が「自動車業界は、ひょっとしたら全部アップルにやられてしまうのではないか」とおっしゃったのです。「どういうことですか」と伺うと、アップルはスマートフォンをはじめとするモバイルデバイスのビジネスをしてきたわけですが、いま究極のモバイルデバイスは自動車だということで、自動車をターゲットに大きな研究開発を進めているのです。
アップルだけがそうした動きを取っているのではないのでしょうが、電気自動車をインターネットや情報ネットワークに結び付けることで自動運転の実現を目指し、交通ネットワークに組み込むことで「シェアードエコノミー」、つまり95%は車庫に眠っている自動車を互いにシェアして使う仕組みを探るなど、アップルをはじめとした企業がいま、自動車をめぐって、さまざまなイノベーションを起こそうとしています。20年後、30年後の自動車は、相当変わってくるのではないかと思います。
たまたま同じ日に、金融機関のトップの方に「金融機関はグーグルにやられてしまうのではないか」と言われ、自動車メーカーのトップの方には「自動車はアップルにやられてしまうのではないか」と言われたのです。お酒の席での話ですから、そこまで深刻ではないのだと思いますが、われわれはやはり、こうした展開を相当真剣に考えなくてはならないでしょう。
●情報技術の革新を恐れることはない
世界ではいま、ものすごい勢いでICTが進んでいます。クラウドコンピューティングのサーバーのために世界で使われている電力量は、日本全体の電力利用量よりも多いのです。AIもまた急速に進化しています。いまコンピュータでできることは、チェスで世界チェスチャンピオンに勝つ、あるいは簡単な翻訳くらいかもしれませんが、どんどん進化しています。どうやら2016年の日本の産業界にとって最大のポイントは、こうした革新にどうやって対応していくかということでしょう。
私は、決して恐れることはないと思っています。流れをうまく捉えれば、大企業も中堅企業も、さまざまなビジネスチャンスを生み出すことができるはずです。これまでは大きな情報システム、情報リソースは大企業だけが使えたものでしたが、これからは中小・中堅企業や個人ユーザーも簡単に使える時代。それをどう活用したらよいかということが重要になります。
経産省の新産業構造部会でもそうした議論をしています。先ほど触れた「フィンテック」、アマゾンに代表される「eコマース」、アップルが目指す自動運転などの「交通体系や自動車」などで、いったいどのような革新が行われようとしているのか、教育やメディカルなどの領域がビッグデータやAIによってどのように変わっていくのかなど、一つひとつの分野、産業でいま起こっていることをもう少し詳細に見ていくと、おそらく将来の方向性が見えるだろうと思います。
10MTVでこのお話を聞いてくださっている方々の中には、さまざまな業界の方...