●人民元が突如、切り下げられた
シティグループ証券の高島です。今日はよろしくお願いします。ご存知のとおり、8月に中国人民元の切り下げが行われました。今日は、その人民元切り下げの背景、人民元が今後どのように推移していくか、元切り下げがドル円相場や他の通貨に与える影響の三つについてお話ししようと思っています。
まずは「元切り下げの背景」ですが、8月11日、人民元の為替レートが突如、元安方向へ切り下げられました。それまでは1ドル6.2元前後で推移していたのですが、切り下げ後は、1ドル6.4元前後となりました。私が勤務しているシティグループでは、人民元相場は、1年ほどかけて、1ドル6.8元前後まで元安が進むと見ています。切り下げ前の6.2元のところから、大体1割ぐらい向こう1年間ぐらいかけて元安が進むという見方をしています。
今回、元切り下げを発表する際に、中国の中央銀行である人民銀行が記者会見を行っています。そこでは、人民元の市場レートが基準値からかけ離れていたことを強調し、市場レートと基準値のギャップを小さくすることに元切り下げの目的があると語っていました。人民銀行は、基本的に毎朝、人民元の基準値を発表します。あくまでも参考レートで、その値で取引されるわけではなく、実際の市場レートは少し元安あるいは元高の水準になります。ところが最近、市場レートが基準値よりもかなり元安方向にとどまる状況が続いていたのです。今回、そのギャップを是正するために、元相場の誘導目標、あるべき水準を元安方向に変更したというのが、人民銀行の説明です。
それ以外には、数年間のドル高によって、円安、ユーロ安、アジア通貨などの新興国通貨安や資源国通貨安になっていることも強調していました。円安や韓国ウォン安、台湾ドル安が進むと、中国の国際競争力が落ちてしまいます。元が対米ドルで高止まった状態になっていたこともあって、元の割高感が突出していたのです。そのため、元を円安、アジア通貨安に適合させる目的があるという説明がありました。
市場には、今回の元切り下げは、輸出を振興するための景気刺激策だという見方がありますが、当の人民銀行は、輸出を推し進めるために人民元相場を10パーセントも切り下げるのではないと言っており、建前としては、景気対策や輸出振興のために通貨安誘導をしているという見方を否定しています。
●元切り下げの原因は、いくつかある
日本の中では、株価が下がり、景気も落ちてきている中国が、苦肉の策として通貨切り下げに打って出たという見方が強いですが、海外、特に中国では、今回の元切り下げは「人民元国際化」の一環と言われています。どちらかといえば、海外では後者の見方の方が強い印象があります。そこで、私なりに今回の元切り下げの背景をまとめると、一つの理由で元切り下げが決定されたというよりは、いくつかの政策のために元切り下げの合理性が大きかったということだろうと思います。
一つは、景気対策です。これは、中国の中長期的課題になってきていますが、経済成長率が目標の7パーセント台になかなか届かないこともあり、人民銀行の金融緩和策が実行され、公共投資再開、財政刺激の動きも出てきています。さらに株価が急落して、空売り停止、IPO停止といった株価対策も出てきました。こうした流れの中で、人民元切り下げが出てきた側面があると思います。言うまでもなく、日本、アメリカ、ヨーロッパでも基本的な景気刺激策は通貨を安くする取り組みで、それらと同じものとして位置づけることができます。
二つ目は、人民銀行が話していたとおり、外部環境が大きく変化しており、中国の国際競争力が低下していることがポイントです。最近、ドル高によって、円安とアジア通貨の下落が進んできたため、どうしても人民元の割高感が目立っていました。外部環境の変化に対して、人民元相場を事後的、政策的に適合させる意味合いがあったと思います。
●人民元国際化も、元切り下げの理由の一つ
三つ目は、より長期的な国家戦略の見地から、「人民元国際化」を進めているということです。例えば、最近話題になったアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立、貿易取引の元決済の自由化、新興国を中心とした海外諸国との通貨スワップ協定締結などが、人民元国際化の取り組みに当たります。人民元の対ドル上昇は比較的緩やかに進んできましたが、実は、人民元国際化はこの5年ほどかなり熱心に行われてきたのです。
その一つに、SDRの構成通貨に人民元を入れるという目標がありました。SDRとは、この場では詳しい説明は割愛しますが、国際通貨基金(IMF)が提供する「特別引出権」のことです。危機に陥った国が外貨による金融支援を受けられる権利です。SDR...