●2005年の元の切り上げを教訓に
三つ目の論点は、そういう形で元安が進んでいった場合に、円安やアジア通貨安が一段と進むのかどうか、また、他の通貨への影響はどうなるのかです。この質問を受けるたびに私がお話しするのは、「2005年のことを覚えていますか」ということです。
2005年は、先ほどお話しした、従来ずっとドルに固定されていた元の切り上げが発表された年です。そこから昨年の春まで長期的なドル安元高が続きました。この2005年の元の切り上げの発表前には、市場で元切り上げ観測がかなり高まっていました。アメリカなどからもだいぶ圧力がかかっており、近々元の切り上げが発表されるのではないかと言われていました。
その当時、ドル円相場は、基本的には2002年ごろからの長期的なドル安円高ムードの中にありました。実際には、2004年の年末にドル円は底入れしていたわけですが、まだ2005年に入ってもドルの上値が重く、長期的なドル安円高の流れは変わっていないという見方が強かったのです。市場はいろいろなことを後講釈しますので、その時も、円高という見通しを正当化するために、さまざまな出来事を円高要因として解釈する傾向が強かったのです。その時に非常に話題になっていたのが、人民元の切り上げでした。市場では、人民元切り上げが発表されれば、当然円高になるという見方が強かったわけです。
●原因と結果を取り違えてはいけない
若干、手前味噌になりますが、その時点で私のドル円相場の見方は、すでに円安ドル高に変えていました。アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の利上げが進んでいましたので、長期的な円高は終わって、長期的なドル高円安に転換するという見方を示していたのです。元切り上げで円高になるという見方に対して私は否定的な見方をしていて、その時によく、このように申し上げていました。
「元の切り上げとは、要するにどういうことか。もともと米ドルに固定されていた人民元が、2002年以降進んだドル安円高およびドル安一部のアジア通貨高に対してやはり出遅れているということがあった。ドルに固定しているがゆえに、どうしてもこうしたドル安を織り込めていなかった人民元相場を、政策的かつ事後的に修正するものである。その意味においては、ドル安や円高やアジア通貨高の結果として人民元が切り上げられるの...