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「消費増税が景気を冷やす」という見方は正しいのか?

消費増税、ここがポイント~景気は失速するのか~

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
2014年4月より消費税率が5パーセントから8パーセントになる。景気失速の引き金と反対する専門家も多いなか、安倍首相の決断はいかになされたか。消費税が日本の将来に役立つ理由と、引き上げの意味を、伊藤元重氏が世界情勢に基づいて明快に解説する。
時間:10:44
収録日:2014/03/14
追加日:2014/03/27
カテゴリー:
≪全文≫

●慎重に検討を重ねた「5パーセントから8パーセント」の道


今日は、消費税の話をしたいと思います。ご案内のように、2014年4月より消費税を5パーセントから8パーセントに上げることがもう決まっています。その後、2015年にさらに10パーセントにまで上げるかどうか。これが、今年の政策論議のなかでもこの先の大きなテーマになるでしょう。
消費税を5パーセントから8パーセントに上げることは、昨年9月に安倍総理が決めています。その決断の前には多くの専門家が官邸に招かれ、議論が重ねられました。
一番の大きなテーマは、「ここで消費税を上げると経済が失速して、せっかくのデフレ脱却の芽を摘み、元も子もない状態になるのではないか」というような懸念を示す専門家が何人もいて、大きな論点になったのだろうと思われます。
しかし、そうは言いながらも、やはり日本経済にとっては消費税を上げることのほうが好ましい。また、消費税引き上げで生じるマイナス効果については、追加的な対応策を行っていくことで、ある程度抑えられるのではないかという判断が行われて、消費税を上げることになったのです。

●消費税率引き上げは、景気の失速をもたらす?


いくつかのポイントを申し上げますが、私は個人的には、消費税を上げることによる景気の失速については、それほど心配していない立場です。
どうしてでしょうか。まず、消費税を上げると、なぜ景気が失速するのかを考えましょう。これは増税前の「駆け込み需要」が原因だと言われています。消費税が上がると決まったら、当然の心理として税金が安いうちにたくさん買っておきたくなる。そういう駆け込み需要が起これば、これも当然、増税後には「駆け込み反動」という形で需要が落ちるわけです。この「駆け込み需要―駆け込み反動」があると、やはり「反動」のところで景気は大きく失速するのではないかと言われています。
しかし、これは常識的に考えてみれば、駆け込み需要と駆け込み反動はプラスマイナスでキャンセルするはずですから、少し長い目で見ればそれほど大きな問題ではありません。今年の日本で言えば、4月に消費税を上げて、4~6月あたりまでは相当影響を受けるかもしれないが、7月以降はまた元に戻っていくだろうというのが、一般的な見方だと思うのです。
現実問題として、ヨーロッパ諸国などは過去に何度もいろいろな国で消費税率を上げてきました。多くの国で換算されることは、消費税を上げた直後には若干の駆け込み反動の影響はあるものの、だいたい3カ月もすれば正常な状態に戻ると言われています。

●「3パーセントから5パーセント」の苦い経験


ではなぜ、日本の場合にここが議論になるのか。1997年の橋本内閣時代の経験があるからです。このときには消費税を3パーセントから5パーセントに上げたことが、経済を強く大きく失速させ、その結果として、その後の日本経済の低迷が起こったのではないかという見方があるのです。
しかし、これも丁寧に見ていくと、必ずしもそうではありません。例えば駆け込み反動の例を見ますと、消費税を3から5に上げたときに、たしかにその後の3カ月間の需要は落ち込みましたが、4カ月目以降からは需要は戻っています。
ただ、日本にとってこの時期不幸だったのは、金融問題に多くの不安を残していたことです。山一證券の破たんに象徴されるように、その後も次々と金融危機が襲ってきました。またアジア全体でも、ちょうどこの時期に「アジア通貨危機」が起こりました。つまり、消費税とは関係のない要因で日本経済を直撃するような問題が起こり、それが結果的に経済の失速につながったということです。
さらに、これは何人かの専門家が指摘することですが、消費税引き上げと同時期、1997年から1998年にかけて公共事業の削減などがかなり行われています。このように、いろいろなことを同時にやっていて、結果的には景気が落ち込むような財政運営になっていったわけです。なぜそのようになっていったかについては、議論の分かれるところですが。

●今回の消費増税が景気を冷やさない理由


今回に関しては、いくつか重要な見るべきポイントがあります。
まず、金融市場を見ると、少なくとも日本国内はかつてのような状況ではなくて、金融機関のバランスシートも安定的で、落ち着いています。
それから、政府自体もやはり1997年の橋本内閣のときの経験をよく理解していますから、かなり慎重になっています。消費税引き上げによって起こり得る景気の失速を回避するような措置を行ってきています。
例えば、住宅を例に取りましょう。住宅は購入する金額が大きいですから、消費税の駆け込みの需要の影響が直接に出やすい部分です。そこで、あまりそういうことが起こらないよう、むしろ消費税が上がった後の...
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