●足並みそろわぬ欧州がアベノミクスを注視
ECB(欧州中央銀行)のマリオ・ドラギ総裁は、ヨーロッパは大規模な金融緩和をしなければ息を吹き返さない危機的状況だという認識が強いのです。ギリシャもイタリアもスペインも金融緩和をやってくれと賛成なのですが、ドイツは大反対なのです。そんなことをしたら、主として南欧の生産性の低い国の財政規律がなくなってしまうため、中央銀行が「財政規律はなくてもいい」とお墨付きを出すようなものだ、と大反対しているのです。ただ、ドラギさんが金融緩和を決めて、各国で国債を買いなさいと命令したものですから、ドイツも嫌々ながら国債を買っています。とはいえ、買うたびにECBを批判しているのです。ドイツ首相のアンゲラ・メルケルさんも反ECBで渋い顔をしています。
ですから、ヨーロッパは団結ができないのです。そういう状況だから、ますますアベノミクスに興味があるのです。アベノミクスが本当に第一、第二、第三の矢でデフレを脱却したとか、経済成長が始まったというと、それを教科書にしてヨーロッパが再団結できるかもしれないという期待感もおそらくあると思います。そんなことで、今回、私は鮮烈な印象を受けました。皆さん、かなり真剣でした。場合によっては日本以上にアベノミクスの動きを見ているかもしれません。
●安定的に見える日本が抱える社会保障問題
私は相当詳しい説明をしたのですが、いろいろな質問が会場から出てきました。
一つは、日本の成長率は確かに低いけれど、そこそこ安定的に動いているのではないか、そんなにパフォーマンスは悪くないのではないか、という質問で、同じような内容の質問がいくつかありました。それはそうかもしれません。しかし、私が皆さんに強調したのは、日本の抱えている巨大な財政赤字問題、それから高齢化に伴う社会的費用の増加です。今のままでは、日本の社会保障制度が破綻するのは目に見えているからです。
なぜかといえば、日本の社会保障制度が完成形になったのは1960年代初頭ですから、もう50年前のことなのです。その頃、日本はピラミッド型の人口だったため、それに合わせた社会保障制度がつくられました。今はこういう人口構成(つぼ型)になっているでしょう。こういう人口で、50年前の社会保障体系が合うはずがありません。ですから、大問題なのです。
特に今は、所得のはっきりしていない人たちが増えています。昔、年金の第3号被保険者は普通のご家庭の奥さんで第1号被保険者は自営業者でしたが、今はそうではなく、人口の中の比率も膨大に増えているのです。何がはっきりしないかというと、雇用や所得のトータルがはっきりしないのです。つまり、これは不完全就業ということなのでしょう。はっきり言って、何をやっているのかよく分からないのです。こういう人たちが、千数百万人ほど出てきています。主に若い人たちが中心なのですが、この人たちは医療保険を拠出できないような人たちなので、結局、他の大企業の保険などを財政調整して、そこに入れないといけないのです。これは、大変難しい構造問題で、現代日本が抱えている問題の一つなのです。
日本にトマ・ピケティさんという人が来て、大受けでしたね。「世界は放っておけば、必ず格差が拡大する」と言うものですから、これを民主党が、「国会でピケティ教授も言っているではないか」と取り上げたわけです。確かに、日本は今、貧困層が増えて深刻化しており、不完全就業者が増えているという問題があります。というよりも、社会保障制度を受給する人が増え、拠出する人が弱くなっていますから、大問題なのです。
これは、もっと経済が成長し、税収が上がってくるような経済になれば、社会保障の基金をさらに強化することができます。私の最大の関心事は、経済成長によって社会保障をもっと強化できるか、ということです。もう一つの関心事は、GDP比でギリシャの数倍という、世界最大の深刻な財政赤字です。このリスクを軽減するため、相当程度の成長がしばらく続けば、赤字は半分ほど吸収されます。それができるかという観点から見たら、日本の経済成長はmuch much too low、全然不十分なのです。はっきり言って、4パーセント以上の名目成長、3パーセントの実質成長を10年ほど続けなければ、日本はいま抱えている高齢化問題、財政問題の解決の糸口さえつかめないのです。
ヨーロッパの人たちが、「日本はいい」と言ってくれるのはありがたいのですが、そんな簡単ではありません。
●保有率の変化で国債価格急落のリスク
もう一つ、日本は財政問題が大変だというけれど、ギリシャとは全然違うではないかということです。「ギリシャの国債は、外国の金融機関がほとんど持っています(もちろん、ギ...