●デフレ克服を掲げたアベノミクスと財政再建計画
まさに、このヨーロッパの悩みが深まった時に安倍晋三さんが現れました。そして、世界史上初の長期デフレに落ち込み、20年近く一人負けしていた日本を「克服させる」と言ったのです。どうやって克服するかというと、「三つの矢」です。
一つは「金融の矢」です。異次元的な金融緩和によってたくさんのベースマネーを世界に供給し、人々の期待感を変える。すると、「円が安くなる」と、投機家たちが期待して殺到し、実際に安くなりました。円安になると輸出が伸びる可能性が出て、輸出企業がもうかると予想されて、株価はどんどん上昇する。そういうことで、それなりの効果が上がります。
しかし、アベノミクスの最大の狙いは、デフレに沈んだ日本人の気持ちをインフレマインドに変えるところにあります。金融政策は人々の期待感を変えるのがほぼ唯一の役割で、金融政策だけで経済が成長するのはほとんど不可能だろうと思われます。しかし、とにかく金融政策が一番バッターで、ホームランを打っていますから、効果が及んできているのは事実です。
デフレマインドの経済からインフレマインドの経済へ、人々の心と行動が変われば、構造が変わります。大変な構造転換ですから、行く手は険しいガタガタ道です。そこをスムーズに越えるには機動的な財政策が必要ですから、第二番目として財政政策が行われました。
安倍内閣が思い切った財政支出を行っているのは、中長期財政再建のためです。2010年にスタートした財政再建計画の中で、2020年には基礎的財政収支(プライマリー・バランス=PB)を均衡させようと企図しました。それがうまくいかなくなる可能性が出てきた場合には、機動的な財政支出が必要になる。そう考えて、現に実行しているわけです。
●「死に至る病を日本は克服できるのか」に集まる注目
ヨーロッパ人はそれをよく見ています。ヨーロッパもまた、放っておくと「日本病」になって沼のふちに沈む。それでは困るからです。
デフレは「死に至る病」だと言われています。その理由は、人々や企業がデフレ経済の進行を認識し、そのマインドセットになったときに、どういう行動を取るか考えてみれば分かります。デフレの中で一番賢い行動は、いま持っているお金を使わないことです。いま使うより3年後に使う方が価値が高いわけですから。
そうやって、誰も彼もお金を使わなくなると、消費は低迷します。また、商品の値段が下がると、同じだけの数量を売っても将来的には価値が低くなるということです。価値の低くなる行動に投資する人はいませんから、投資も同様に低迷します。デフレ時代の日本では、国内投資が非常に細くなり、消費も停滞しました。
経済とは消費が7割、投資が2割5分でできているわけですから、これが収縮すると経済が収縮します。繰り返せばやがて経済は「死に至る病」に陥る。それほど恐ろしい病だということをヨーロッパ人は知っていますから、何とかして「日本病」を免れたい。
そんな時に安倍さんが仁王立ちになって立ち上がり、「異次元的金融緩和をやる、積極的財政政策を取る」と始めたわけですから、彼らの関心は高く、好意的な見方を寄せている。もしも日本が20年来のデフレのふちから立ち上がって来るならば、その方法をヨーロッパもいただこうと思って、勉強しに来ているわけです。
●アベノミクス第一・第二の矢がはらむリスク
異次元緩和によって、政府財政当局が毎月発行する大量の国債の7~8割を日銀が買い占めています。それでどういうことが起きるかですが、本来、借りた借金を自分の力で返すのが「財政規律」です。日銀の買い取りを見込んで政府がさらに国債を発行することで無限に引き延ばしができるという甘い気持ちを起こすといけない。これを財政規律の崩壊と言いますが、本当にそれが起こると、日本は借金を返せない国だと世界に見られ、日本の国債の価値は暴落します。それほど巨大なリスクを抱えているわけです。
財政では、2010年度にPBの赤字が対GDP比で6.7パーセントありました。これを10年後にゼロにする、中間点の2015年は3.2パーセントにするのが目標でした。足元の状況を見ると、2015年はいろいろな操作のためぎりぎり軌道上にとどまりそうですが、2016年以降の見通しは暗いという試算結果を、内閣府が発表しています。
内閣府の試算によると、アベノミクスが泣いて喜ぶような理想的経済、すなわち今後10年間の平均成長率を名目3パーセント・実質2パーセントで見積もっても、2020年にPBの赤字の対GDP比は1.1パーセントは残ると言います。これは世界が見ていることですから、もし本当にそうなり、いよいよターゲットである2020年に...