●2016年は波乱の幕開けだった
今まで私は、年頭所感では定点観測で経済について話していました(7月の講演は自由論題でやるということでしたが)。これからも定点観測はしますが、今年からモデルを変えます。今まで日本経済に視野を絞って、アベノミクスだ何だと議論をしていましたが、もはやそういうことを言っている時代ではありません。そういうことを言っている時代ではなく、日本は最も国際社会の中で依存性の高い国の一つなので、やはりこの際、常に世界を見ていこうというスタンスでいきたいと思います。来年もずっと「世界の中の日本」ということでいきたいと思います。
今年はその最初のモデルで、歴史にも若干触れながら、2時間で皆さんの掌中に地球が全て入ってしまうような、そんなつもりで精一杯努力をしたいと思います。
テーマは、「激動の世界経済」と日本です。今年は冒頭から波乱の幕開けでした。株価は年初から6日続落して少し上がり、また落ちて、となりました。もう2万円以上になるのではないか、去年はそういった期待がありましたが、現在は1万6000~7000円のところでウロウロしている状況です。これ日本だけではありません。世界中で、かなりの国がそうなっています。
この背景には、中国の不調と中東の不安があります。サウジアラビアとイランが対立し始めたなど、いろいろなことがありますね。それから、1月6日に金正恩という男が、水爆実験をやったと愚かなことを言って、またこれで株価が下がる。今年はとても波乱の幕開けでした。
先ほど申し上げたように、日本は最も世界の変動の影響を受ける国ですので、まずこの世界情勢の変化の中から日本経済の動向を展望して、課題を整理して考えてみたいと思います。
●アベノミクスはデフレ脱却を目指した
レジュメで言うと、「激動の世界に翻弄されるアベノミクス」です。アベノミクスの中心は三本の矢ですね。その中で、これまでのところ成果が上がっているのは、第一の金融の矢です。ですが同時に、アベノミクスの中でここに最も負担がかかっていると思います。「クロダノミクス」などと言われています。
皆さんも覚えていると思いますが、2013年の秋に菅義偉官房長官が島田塾に来られたことがあります。その時に菅さんが言ったのは、安倍政権をつくる時の最大の眼目は、「なぜ20年間デフレを放置したのか」ということでした。財政は大蔵省に、金融は日銀に任せきりだったではないか。政治家は何をやっていたのか。ここを大いに反省するということで、ものすごく勉強したというのですね。デフレは貨幣減少なのだから、貨幣供給を基本にする。そういう経済政策でデフレ脱却を目指す。それが安倍政権の最大の眼目であると言われたのを覚えていると思います。
実際、そういうことでスタートしたのだと思います。「失われた20年」のデフレを脱却しよう、ということです。クロダノミクスの最大の主眼は、2パーセントのインフレを実現することです。なぜそんなことをするか。人々の間に根付いてしまったデフレ・マインドを脱却させ、インフレ・マインドになってもらいたいという願いです。それはどうなったのか。円安になり、輸入物価が高くなったので、だんだん物価が上がってきたのですね。2013年は上がっていました。ところが、2014年の半ば頃から、上がらなくなったのです。
その背景は何かというと、2014年6月をピークに原油価格がどんと落ちたことです。これは今や「逆オイルショック」と言われています。クロダノミクスは、その波の中へ引き込まれて、全く機能しなくなってしまった。今、日銀のインフレ目標もめどが立ちません。ということは、安倍政権の最大の眼目が機能しないのですね。しかも、これを実現するために、日銀はベースマネーを350兆円、GDPの7割まで出しています。後で言うように、どうやってこれを回収するのかという問題があります。それだけやっても、初期の目的が達成しないことが明らかになったということです。
●アベノミクスは成長につながらなかった
次の問題として、アベノミクスが成長につながらないことがあります。皆さん、思い出してください。政権が発足してすぐの2013年前半は、良かったのですね。経済成長率は第1四半期6パーセント、第2四半期3パーセントでした。このタイミングでアベノミクスの成長戦略が発表されたのですが、発表されてから1.6パーセントになり、冬になったらマイナス1.5パーセントになってしまった。
翌年は消費税値上げがあったので、駆け込み需要で5.8パーセントまでいったのですが、それが終わったら6.7パーセントのマイナスです。いつ復活するのか? といっても復活しない。その後、最近になって少し復活したので...