●日本最大の問題は人口減少と高齢化
結局アベノミクスは、クイック・フィックス(応急処置)で、短期でやっていると思います。長い間続いたデフレをインフレにしてみせるということでスタートし、最初の1年はうまくいくかなと思ったのですが、結局うまくいきませんでした。
さらに大きな問題が控えています。日本が直面している最大の問題は、人口減少です。経済成長率というのは、人口、すなわち労働力の増加率と1人当たり生産性の増加率を足したものなのです。だから『ALWAYS 3丁目の夕日』の時代に、経済成長率10パーセントが可能だったのは、大規模生産したことによる生産性上昇が8パーセントあり、人口が毎年2パーセント増えたからです。足せば10パーセントになったのです。
今はどうかというと、産業がサービス化していますから、専門家がかなり積極的な見立てで計算すれば、生産性はネット産業で1.5パーセントほど伸びるかもしれないと言っています。ただ、労働力は毎年0.7パーセントずつ減っています。だから、引き算をしなければいけません。そうすると、かなりの楽観シナリオにしても、ネットの期待成長率、長期潜在成長率は0.5~0.8パーセントです。
前回お話しした財政再建では、今後3パーセントを維持するように経済が成長しても、財政再建は果たせないことが明らかになっています。この状況で行くと、アベノミクスは駄目になるのではないか、ということです。
それから深刻なのは、高齢化です。高齢化の社会的費用といって、介護とか医療とか、ものすごく社会的費用がかかるのです。国民負担率というものがありますが、高齢化比率が約25パーセントで、国民負担率は約40パーセントです。税負担率がおよそ20パーセント、社会保障の負担率もおよそ20パーセントです。ところが、2050年には高齢化率が約40パーセントになるということですから、そのときに今の制度を平行移動させると、国民負担率は約70~73パーセントになるということです。そうすると、年収500万円のご家庭の場合、可処分所得は135万円に満たないということで、これでは持続可能性がありません。唯一、持続可能性としてあり得るのは、次の世代にその負担を負わせることで、そうすればその世代はなんとかなります。次の世代というのは、われわれの孫の世代ですが、その結果、次の世代は持続できなくなり、死に絶えてしまいます。だから、日本経済に持続可能性はないのではないかと思います。
●「一億総活躍」と「地方創生」に何ができるのか
そうしたら、安倍首相は「アベノミクスが第二段階に入った」と発言し、総括スローガンを「一億総活躍」と言い出したのです。これが新3本の矢です。何かというと、第一の矢は「希望を生み出す強い経済」。数字は、GDP600兆円です。急に日本がおかしくなったようです。第二の矢は「夢つむぐ子育て支援」。希望出生率1.8と言いますが、今でも1.3~4いくかいかないかであえいでいるのです。第三の矢は「安心につながる社会保障」(介護離職ゼロ)で、これは安倍さんの側近が大臣になって行うと言っているのです。
一昨年の後半ぐらいから、アベノミクスはおかしくなり始めました。私は、アベノミクスの熱烈な支持者といいますか支援者のつもりなのですが、これほどおかしくなると、さすがに変だなと思います。先ほど言ったように、第三次成長戦略は、完全にホッチキスで止めただけの前の戦略の寄せ集めで、中身は第二次のものよりも、かなり後退しています。
さらに地方創生です。石破さんは真剣に「やります、やります」と言っているのですが、何をやるのかというと、「地方からいろいろなアイデアを出してください。メリハリをつけて補助します」ということで、良いアイデアには補助金を出しますというのです。
今日は地方の方もいらっしゃっていると思いますが、地方自治体で良いアイデアを出せますか。先ほどから申し上げているように、日本という小舟は、歴史的にも現在も、世界経済と世界政治の中で翻弄されながら動いているわけです。そういう状況の中で、それが分からずに地方で生かす案が出せるのかと聞きたいのです。「グローカル」とかいっても、それは無理です。世界を見たこともなく、遊んだこともない、世間を知らないお役人さんに、何ができるのでしょうか。
三つか四つの地方創生戦略を見ていますが、結局、中身はほとんど同じです。宮城県なら宮城県、和歌山県なら和歌山県という名前が違うだけです。昔、どこかのシンクタンクが表紙だけ変えて同じものを出していたのですが、それに近いのではないでしょうか。それを地方の人が本気でやっているとしたら、気の毒です。本当にやっているかもしれませんが、無理なのです。
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