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難民流入とギリシャ・イギリスの離脱志向に対処できるか

激動する世界情勢と日本(6)きしみ始めた欧州連合

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
欧州連合(EU)の旗
EUは元来、歴史的に反目し合ってきたドイツとフランスが再び争わないために設立された壮大な試みだ。しかしそのEUが今、大きくきしみ始めていると、千葉商科大学学長・島田晴雄氏は指摘する。その背景には、ギリシャやイギリスの離脱志向や中東からの難民流入がある。EUが抱える現代的な課題を、島田氏が整理する。(2016年1月26日開催島田塾第131回勉強会島田晴雄会長講演「年頭所感 激動の世界経済と日本」より、全10話中第6話)
時間:12:52
収録日:2016/01/26
追加日:2016/05/09
カテゴリー:
≪全文≫

●ギリシャの財政問題に振り回されるEU


 アメリカにチャレンジしようとしたのが、欧州です。欧州がユーロ圏になると、GDPは互角ですが、人口ではアメリカを上回ります。

 今、ギリシャ問題で皆さんの関心が非常に深かったと思います。ギリシャは、実はすごく特別扱いされており、EUにも最初のグループに近いところで入っているのですが、EU加盟国の資格を満たしていないのですね。マーストリヒト条約というものがあって、非常に厳格な財政規律の条件を課しているのですが、ギリシャはただの一度もそれを満たしたことがありません。2010年の政権交代で、新しい政権が前政権の財政赤字の粉飾決算を発表してしまったのです。

 これは、「うそをついていた」ことになるので、ギリシャの国債は暴落しました。ギリシャの国債は、世界各国が多く持っていたので、世界中の金融のシステミック危機に発展する恐れがあるということで、ドイツとフランスが共同し、EU構成国の政府、ECB(ヨーロッパ中央銀行)、IMF(国際通貨基金)などと協議をしてなんとか救おうとしました。そうしないと金融が危ない、というわけです。

 ただEUには、「非救済条項」というものがあって、規律を満たさないような国は救ってはいけないという文言が入っているのですね。それでも、法解釈の枠内で何とかできないかということで、2010年には第一次支援で1100億ユーロ、2012年には第二次支援で1300億ユーロを出しました。その他に民間投資家も協力しています。


●改革を拒むギリシャ国民、そこに近づくロシア


 これを受けて、ギリシャ発の金融危機は回避されたかと思ったのです。ところが今度、一昨年の暮れから、ギリシャは借りた金を返せないと言い出したのです。さすがにそれには各国政府、ECB、IMFも困りました。きちんと返すため財政緊縮と構造改革を行うようにと要請をしたのです。ところが、ギリシャという国は、雇用者の4割が公務員で、年金や公的手当が、とても赤字国とは思えないほど贅沢なのですね。

 そこで、構造改革と緊縮財政をするかどうかを問う総選挙が、一昨年の暮れに行われました。そうしたら、これらの改革に反対する「シリザ(Syriza)」という急進左派連合、ノータイで白いシャツで出てくるアレクシス・チプラスという人が党首の政党が政権に就きました。これがバルカン政治家で、言うことを聞かないため、アンゲラ・メルケルさんは頭に来たそうです。何十回という交渉をやったのですが、結論は出ません。

 昨年7月に、最終的な緊縮策を含む条件を提示したところ、驚くことにチプラスさんは、また緊縮策の諾否を国民投票に問うといって、7月末に選挙をやりました。その結果、僅差で緊縮反対派が勝利しました。これを本当に拒否してしまうと、ギリシャはユーロ圏を離脱せざるを得なくなるかもしれません。

 ドイツにヴォルフガング・ショイブレという財務大臣がいます。強面でご高齢なのですが、彼はずっと、「早く(ギリシャは)離脱しなさい」と公言しています。ただギリシャにも独仏にも、「離脱は少しまずい」という理由があります。ギリシャの場合は何かというと、EUという巨大な経済圏のメンバーとしての特権をいくつか持っていますから、離脱するとそれがなくなってしまうのです。ドイツとフランスが一番心配しているのは、もしギリシャをいじめるとどういうことが起きるかということです。すでにウラジーミル・プーチンさんが、「いつでも援助します」ということでギリシャを足しげく訪ねています。


●ドイツとギリシャの確執が問題を複雑にしている


 仮に、ギリシャがロシアに「お願いします」と言った場合、どういうことが起きるか。地中海側に大きな港がいくつかありますが、それをプーチンさんが買い取って軍事施設にする。地中海に突破口ができるというのは、プーチンさんの長年の宿願です。世界制覇ですね。昨年の暮れには、とうとう中国が買ったのです。中国の場合、軍事目的ではなく、「一帯一路」の最後ヨーロッパ上陸の場所はそこだと言って買ったのです。それはやはり、NATO(北大西洋条約機構)に入っている人たちとしては断固避けたいということで、いろいろ策を講じました。

 そうして8月になったら、突然、バルカン政治家が緊縮策を受け入れると言い出します。これはうそなのではないかと思って、メルケルさんが、「では、国会の中できちんと法律にして、それを証拠として出すように」と言ったら、今度は国会が大騒ぎです。与党からも「チプラス辞めろ」という話すら出ます。ただ、緊縮策の受け入れを行うと一応は言ったために、第三次支援が行われました。860億ユーロです。これでようやく、国民の給料などが支払われることになったのです。

 ギリシ...
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