●上海市場暴落と中国政府の対応
次は中国について、一体何が起きているのかを、皆さんと一緒にざっと見てみたいと思います。
皆さんが覚えているように、昨年(2015年)6月を境に、上海株式市場が激落を始めました。それまで上海の株価は、もう急上昇していたのです。ロンドンに『エコノミスト』という雑誌がありますが、その表紙に気球の綱が切れてばーっと上がっていく絵を掲げ、5月30日に“Flying too high”というタイトルの社説を書いています。さすがにイギリス人はよく見ていますね。「多くの一般庶民が借金してまで投機してこんな状態になっているのは大丈夫か? それは危ないよ」ということです。それが、上海市場が急落する2週間前です。お見事だと思います。
ピーク時には、上海の株式市場指数で5166ポイントです。そこからドーンと落ち始めました。中国政府は、これは大変だということで、とんでもないことを始めました。その日に利下げをして、新規上場は取りやめ。さらに証券各社に「2.4兆円を拠出しろ」、政府系ファンドには「ETF(株価指数連動型上場投信)を買い増せ」、保険会社、民間ファンド、国有企業には「自社株を買え」と、全て命令を出すのです。一時、全上場会社の半分以上が、取引停止になりました。こうなると、何て言うのでしょうか、計画経済以上ですね。中国政府は、市場原理を全く無視した行動を取ったわけです。彼らは大慌てだったと思います。加えて、5パーセント以上を保有している大株主の株主売却は、6カ月停止にしました。「売ったら逮捕するぞ」ということですね。
これではまるで、20年前の中国に戻ってしまったような感じです。こういうことをやったので、株価も少しは反発したのですが、また崩れました。そこから止まらずに、8月26日にまた大暴落がありました。株式ポイントで言うと、2927ですから、6月の高値から43パーセントも落ちてしまい、年初来の半年分を全部失いました。ところが、さらに落っこちたのですね。今年の1月早々にもまた急落しました。
実は、上海市場では、株価が一定以上動いたら自動的に止める「サーキット・ブレーカー」という仕組みを1月4日に用意していたのですが、すぐに作動させなければいけなくなった。1月7日には、前日比でいきなり寄付(よりつき)から7.5パーセントもどんと落ちたものですから、これは危険だといって、自動ブレーキがかかってしまったのですね。開始30分で、取引終日停止です。
この事態は、いったい何なのかということです。一般投資家はもう大失望です。国民は、政府不信を強めます。政府は何やっても全部機能しない。海外投資家は、もうこの国は何をやっているのだと思う。株式市場に、まだ全然慣れていないではないか。そのため、投資資金がどんどん流出しました。
実は、この間に流出した資金は、推計でなんと1兆ドルにもなると言われています。アメリカの機関が推計したようですが、日本円で120兆円です。『フィナンシャル・タイムズ』が今年の1月14日に書いています。元が急落したからといって、こういうことをやると、世界中が「今の中国どうなっているのか」と不信を抱く。今日まさにここで、中国はこうなっているという話をしますから、皆で勉強して理解しましょう。
●超大型経済対策が中国経済にもたらしたダメージ
そこでやや歴史をさかのぼり、2008年まで一度戻る必要があります。2008年11月9日、リーマン・ショックから1カ月半後に、中国政府はすぐ動きました。4兆元、日本円換算60兆円の巨大な経済対策を打つと発表したのですね。これは中国のGDP比で16パーセントを占める超大型の対策です。「これで世界の急落を止める」と胸を張ったのです。当時の胡錦濤国家主席と温家宝さんは、世界中でそれを言いました。
ところが先ほど言いましたように、このことから、30年近く続いた高度成長時代が、この辺りで終わったと言えると思います。大きな課題が出ました。この莫大な経済対策は全部公共投資になりますから、これをどう実施していくのかという課題が出ます。中国の公共投資は、その7割を地方がやるのです。地方政府は、工場・住宅団地、道路、港湾、鉄道といったインフラ投資をすることで、投資を吸収していきます。もちろんこれには真水のお金が出るのですが、その他に民間資金も追随して出ますので、莫大なことになります。
ただ地方政府は、当時まだ債券の発行ができなかったのです。さらに銀行の方も、こんな莫大なインフラには融資がすぐできるという状態ではなかった。そこで、ノンバンクが登場します。中国語で「ディファン ヂォンフー ロンズー ピンタイ」と言い、日本語では「地方政府融資平台」と言っているこの...