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経済問題を通貨政策により克服―レーガノミクスとの類似性

円安をどう捉えるか―購買力平価で見るアベノミクス

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
自らの減税プランをテレビで説明するレーガン大統領(1981年7月)
加速する円安は日本にとってプラスなのか、マイナスなのか。円安の構造と解釈を、購買力平価、実効相場、実質実効円相場の論理的理解という三つの観点から考える。シティグループ証券チーフFXストラテジスト・高島修氏による解説。(シリーズ講話第1話目)
時間:15:28
収録日:2015/03/18
追加日:2015/03/27
カテゴリー:
≪全文≫

●加速する円安を読む三つの観点


 皆さん、こんにちは。シティグループ証券の高島修です。

 ドル円相場は、1ドル122円台までドル高円安が進み、円安が加速している状態です。そうした中、昨年(2014年)の後半ぐらいから、「もう円は十分に安くなったので、これ以上の円安は害悪である」というような話も、かなり出てきています。今日は、今の円安をどう捉えるべきかについてお話しします。

 大きく分けて三つの項目があります。

 一つ目は、購買力平価の考え方から、円相場の割高感、割安感を考えます。その中でアベノミクスがどういう意味を持っているのかをお話ししたいと思います。

 二つ目は、円の実効相場です。これは少し聞き慣れない言葉だと思いますが、この実効相場から見た割高感、割安感をお話しします。

 三つ目に、その実効相場、特に、実質実効円相場が過去最安値圏まで達してきていますので、そういった状況を、論理的にどう捉えるべきかについてお話しします。


●購買力平価は国内外の物価格差を考慮する


 まず一点目は、購買力平価で見たドル円相場です。購買力平価とは、国内外の物価格差を考慮した上での為替レートの適正水準を測るものです。「ファンダメンタルズ」や「理論がない」といわれがちな為替相場の中で、一番有名な理論といってもいいと思います。

 購買力平価という考え方は、為替相場がまだ基本的には固定されていた1920年代に、スウェーデンの経済学者グスタフ・カッセル氏が提唱したものです。基本的な考え方は、「インフレの通貨は長期的物価の面から安くなり、デフレの通貨は長期的物価の面から強くなる」というものです。

 通貨と為替レートは混同されがちな概念なので、整理したいと思います。通貨は、大きく分けて二つの側面を持っています。それが対内価値と対外価値です。対内価値は、いわゆる物価です。1万円札を持ってスーパーマーケットに行ったら、りんごがいくつ買えるか。これが通貨の持つ対内価値です。一方で、対外価値は、ドル円相場をはじめとした為替レートの問題になります。要は、1万円札を持って私が勤務するシティバンクに来ていただくと、USドルがいくら買えるのか、あるいは、ユーロがいくら買えるのか。これが通貨の持つ対外価値です。為替レートは、言うまでもなく、この対外価値を表すものです。同じ通貨で二つの側面を表すものですから、物価という国内価値は、為替レートという対外価値に、影響を及ぼしているのだろう。購買力平価はこうした考え方に基づくものです。

 では、なぜ、デフレの通貨、例えば日本の円ですが、これが長期的に強くなり、つまり通貨高になり、インフレの通貨が長期的には弱くなる、つまり通貨安になると考えるのか。これを、ドルの代わりにりんごで考えてみましょう。例えば、今日1個100円のりんごが、1年後に200円になっていたとします。りんご1個を買うのに、より多くお金が必要になります。このように、物の値段が上がる現象を「インフレ」と呼びます。一方で、今日1個100円のりんごが、1年後に同じスーパーマーケットで50円になっていたとします。これは、物の値段が下がって、お金の価値が上がっていることを意味します。こういった現象を「デフレ」と呼びます。

 この1個100円のりんごの値段を1ドル100円に置き換えてみます。インフレの場合は、りんご1個100円が1年後に200円になりました。これは、1ドル100円だった為替レートが、1年後には1ドル200円になるということです。ですから、インフレになった分、為替レートにおいては、ドル高円安が進む計算になるわけです。逆に、従来の日本のようにデフレの場合は、1個100円だったりんごの値段が1年後に50円になるわけですから、ドル円相場は、デフレが進んだ分、今日100円だったものが、1年後には1ドル50円まで円高ドル安が進むということになります。こういった考え方に基づいているのです。

 ですから、もともとの円のようなデフレの通貨は長期的に強くなり、通貨高になる一方、ドル、トルコリラ、ブラジルレアルのようなインフレ気味の通貨は、長期的に通貨が下落していくという考え方になってくるのです。


●従来とは違う構造のドル高円安が進行中


 では、現実的なドル円相場の購買力平価はどこにあるのでしょうか。これは、物価指数の取り方や基準年月の取り方によってずいぶん異なってくるのですが、私がよく用いている1973年4月を基準日としたドル円の購買力平価を見てみたいと思います。なぜ1973年4月なのかというと、その年に為替相場が変動相場制に移行したからです。その時、おおむね日本の貿易収支は均衡していましたので、基準年月としては比較的妥当な年かと考えています。
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