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過去の実質実効為替相場との比較だけでは幼稚な分析だ!

円安をどう捉えるか―円安は行き過ぎているのか?

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
最近、「これ以上の円安は害悪だ」という人が出てきているが、シティグループ証券チーフFXストラテジスト・高島修氏は、その議論はおかしいという。なぜ、どこがおかしいのだろうか。円安は果たして本当に害悪なのか。高島氏が「円安の見方」を解説する。(シリーズ講話第3話目)
時間:12:07
収録日:2015/03/18
追加日:2015/03/29
カテゴリー:
≪全文≫

●実質実効為替相場が前提の考え方へ大転換


 こういった中、足元では実質実効円相場が、変動相場制に移行した後の最安値圏に達してきたことを受けて、もう円安は十分だ、円安が行き過ぎている、これ以上の円安は害悪だ、という議論が起こり始めています。今回は3番目の論点として、こういった考え方が正しいかどうかを考えたいと思います。

 意外に知られていませんが、私はコペルニクス的な転換だったと思っていることがあります。2012年に、IMF(国際通貨基金)が為替評価モデルを変更したことです。従来、IMFの為替評価は、実質実効為替相場が過去の平均より下がってきたら、円が割安化しており、過去の平均よりも上がってくれば、円が割高化していると見ていました。当然、同じような議論をドル、ユーロ、韓国ウォンなどでも行っていました。今でも、多くのエコノミストが実質為替相場の過去の平均と比較する手法を採用していますが、あえて言いますと、これはプリミティブで幼稚な分析方法です。

 ところが、2012年、IMFが毎年行う「4条協議」を発表した際、日本経済への報告書で次のようなことを主張しました。

 「日本円の実質為替レートは、過去の平均より若干下がってきており、平均水準に近い状況である。ただ、過去の平均水準と今の実質実効円相場を比べることは、ひょっとするとミスリーディングになるかもしれない。なぜなら、日本経済の競争力が過去の平均に比べて下がっている可能性があるからだ」

 この主張のポイントは、過去の実質実効円相場との比較はほとんど意味がなく、実質実効為替レートの下で経済、物価、株式相場のパフォーマンスを諸外国と比較して、相対的に考えなければならないということです。繰り返しになりますが、単純に過去の平均と実質実効相場を対比する視点から、実質実効為替相場を前提に経済のパフォーマンスを加味するという考え方への転換は、まさにコペルニクス的転換だったと思います。


●実質金利が自然利子率を上回り悪循環


 2年前くらいに、名目為替レートでは過去最高水準の円高が進んでいましたが、一方の実質実効円相場はおおむね過去平均水準でした。それを見て、多くのエコノミストの方々が、ドル円75円も大した円高ではない、と主張していました。

 しかし、私に言わせれば、それはどちらかといえば初歩的な考え方で、重要なのは、過去平均水準にすぎない円高の下で日本がデフレの罠に陥り、輸出や生産活動が落ち込んでおり、市場現象として株価が諸外国より下がっていたことです。過去平均水準の円高にも耐えられないほど日本経済の足腰が弱っていたことを、その時に察知すべきだったのではないでしょうか。IMFが考え方をタイミング良く転換したのは、さすがだったと思います。

 これを概念的・理念的にまとめると、次のようなことがいえようかと思います。為替相場においては、実質実効為替レートを過去平均と比べることが多いですが、金利の世界では「自然利子率」という考え方があります。自然利子率とは、経済が自然体で耐えられる利子の水準です。絶対水準が見えるわけではないのですが、名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利が自然利子率よりも下がると、景気にプラスの効果が出てくる一方で、実質金利が自然利子率の水準を上回ると、景気悪化圧力が強まってきます。

 自然利子率の観点で日本を見ると、過去は名目金利が非常に低いところまで下がっていたわけですが、日本はデフレ経済に入っていたので、名目金利がほぼゼロに近い中、デフレの分だけ実質金利が高止まる現象が起こっていました。加えて日本経済の足腰が弱ったことで、自然利子率が下がっていました。実質金利が自然利子率を上回っていたため、日本経済が景気悪化とデフレの悪循環から抜け出すことが難しかったのです。


●円が割安化したかどうか結論は出し難い


 今、アベノミクスの下で転換を図っていこうとしている一つに、日本経済の足腰である自然利子率を少しでも引き上げようという努力があります。これは、俗にいう構造改革、規制緩和などで達成できるといわれています。

 もう一つの試みは、主に日本銀行が行っていますが、実質金利の引き下げです。日本の場合、名目金利がゼロに近い水準まで落ちています。その中で実質金利が高かった理由は、日本がデフレにあったからで、デフレマインドをインフレマインドに転換すると、名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利がマイナス化してくるのです。自然利子率が上がれば、景気刺激効果が高まってくるという考え方の下で行っている経済政策をアベノミクスといっていいかと思います。

 一方で、この概念を為替レートに当てはめた「均衡為替レート」という考え方があります。私の言葉では、自然利子率に対応する...
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