●2国間の物価上昇率を調整して、為替の実力を見る「実質為替レート」
日本銀行が2回目の金融緩和を行い、そして安倍内閣の消費増税延期と解散。こういった環境を受けて、為替がさらに円安に進んでいます。円ドルレートで見ると、およそ120円前後というのが現在の状況ですけれども、実は今、それ以上に重要なことが起きているということを今日は申し上げたいと思います。
前にもこの場でお話をしたかもしれませんけれども、為替レートを見るときには実質実効為替レートという見方があります。
普通、われわれが日常で議論する1ドル120円とか、あるいは1ユーロ140円というような数字を言っているときには、これは名目為替レートと言いますが、実際の為替の実力を見るためには、物価で調整することが必要になってきます。これを、実質為替レートと言います。
例えば、ドル安になったと考えてみましょう。1ドル100円が90円になるような動きは、当然その背景にいろいろな理由があるわけです。産業の構造が変わったり、あるいはマクロ経済の変化が起こったりといったことです。
その中で、重要な要因として物価の変化があります。つまり、アメリカで仮に物価が上昇していくと賃金も上昇しますが、そうした場合には、物価上昇を反映してドル安になるということは、よくある話なのです。しかし、この場合には名目ではドル安になりますが、実質ではドル安になったとは言わないのです。
なぜかと言うと、アメリカ国内の物価上昇を反映してドル安になるのですから、実際のアメリカの企業の競争力や、あるいは貿易に影響を及ぼすような実質的な為替は変化しないからです。
こういった意味で、為替レートの変化から物価の動きを調整して修正するという作業が必要になるわけで、これを実質為替レートと言います。現実に、例えば円ドルレートで見ると、実際の為替レートと日本の物価上昇率、それからアメリカの物価上昇率を調整して行うのです。
●通貨の真の実力を知るには、複数の通貨の平均をとる「実質実効為替レート」で見る
さて、この10年、日本で何が起きているのかと言いますと、非常に長くデフレが続いてきたわけです。デフレが続くということは、日本の国内の物価や、あるいは賃金が下がっていくということですから、仮に名目の円レートが変わらないとしても、物価が下がっていく分だけ日本の産業の競争力は高くなるということです。そういう意味もあって、実質為替レートは円安になっていくということになります。
したがって、実質レートが円安になるのは、名目の為替自身が円安になる場合にも起きるし、それから日本の物価や賃金が下がっていく、あるいは、その反対側でアメリカの賃金や物価が上がっていくという場合にも起きるということになるのです。
そこで、実際の為替を見るときには、実質で見ることが非常に大事になるのですが、もう一つ、「実質実効為替レート」という言い方をするのですから、「実効」という意味もあるのです。実際に皆さんが今の日本の円の真の実力を知りたければ、実質実効為替レートという指標で為替を見れば良いのです。
この実効レートとはどのような意味を持っているかと言うと、要するに円ドルだけを見ず、円とユーロ、円と人民元、円と韓国のウォンなど、いろいろな通貨の平均をとるということです。
具体的には、日本とそれぞれの国の間の貿易額の大きさのようなものをウエイトとして、いろいろな通貨との関係を平均的に見る、これが実効レートです。したがって、よく新聞等で議論されている実質実効為替レートとは、いろいろな通貨と円の為替レートを平均した上で、それを物価で調整したということです。
●今は、「1ドル300円」の1973年に匹敵する超円安時代
そこで、なぜ、実質実効為替レートの話を今日ここでしたかと言いますと、実は1ドル120円に近づくような、あるいはそれを超えるような円安になる中で、現在の実質実効為替レートで見た日本の円レートの水準は、1973年にほぼ匹敵するものになったということなのです。1973年というと1ドル300円前後の円ドルレートで、それと同じ状況に今あるということは、まさに超円安になっているということだと思います。
少し歴史の話をしますと、戦後日本は一貫して360円という円ドルレートを守ってきたわけですが、1971年に金とドルの交換を停止するという、いわゆるニクソンショックによってドル本位制が崩れました。日本の円も1ドル360円から380円に為替の引き上げということを決断したのです。これで、1971年、72年と何とか固定相場制を守ったのですが、73年になりまして、遂にそれがかなわなくなり、日本は変動相場制に移行し、ご記憶にあるように...