●TPPスタートから日米参加までの経緯
前回、安倍内閣の新成長戦略のポイントとして、まず企業投資と資本市場についての改革、二番目に「産業競争力強化法」に代表される経済の新陳代謝がある、とご説明しました。
三番目のポイントがTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)ですが、これが非常に大きいですね。TPPについては、もうご存知の方がほとんどだと思いますが、念のために「TPPとはこういうことです」というのを申し上げたいと思います。
これは、10年ほど前に、環太平洋の小さな国、例えばチリとか、シンガポール、ニュージーランドやブルネイといった国が、非常に高度な自由貿易の構想を考えたのです。これは貿易も投資も知的財産権も、何もかも全部自由化して、関税をほとんどなくすというようなものでした。それは、実現すればある種の理想世界ですよね。
アメリカがこの動きを見ていて、面白いと言って、何年か後の2010年にTPPに入ったのです。ただ、皆、小さな国ですから、アメリカが入るとアメリカ一国で経済規模のシェアを9割ぐらい占めてしまうのですね。これでは仕事にならないので、もっと力のある国に入ってほしいということだったのでしょう。日本に入ってほしいという感じになったのです。
●今が正念場のTPP-日米が合意すれば世界の貿易の歴史が変わる
しかし、アメリカは、日本に何度も入るよう言っておきながら、入ると今度は向こうの議会がいろいろ言い出しました。アメリカという国は、大統領と連邦議会で成り立っており、大統領は行政のトップですが、決定権は議会にあります。日本よりはるかに議会が強いのです。ですから、いろいろと口を出します。この議会の養豚業関係の議員など、まるでカウボーイさながらに力ずくで押してきて、ホワイトカラーに圧力をかけてくるのです。
そういうわけで、日本もかなり言われて、交渉にあたった甘利明さんも随分と苦労されたようです。いずれにしても、日本とアメリカが入って全体の9割以上です。中国は様子見で、韓国は関心はあるようですが、まだ参加には至っていません。
とにかく、日米が合意すれば世界のトレードの歴史は変わります。これはもう明らかに変わる。GATT(General Agreement on Tariffs and Trade関税と貿易に関する一般協定)、WTO(World Trade Organization世界貿易機関)でやってきた状況もがらっと変わって、これがモデルだ、ということになります。今が正念場なのですね。こうしたことを、この2年半どんどんやっているわけです。
●TPP参加への意欲を問われたオバマ大統領の言動
オバマさんがTPPに関しては一生懸命、旗を振りました。オバマさんは、第一期の時はなかなか頑張っているな、と思いました。2009年に日本に来た時に、サントリーホールで講演をしていて、その時、私はオバマさんのほぼ目の前にいたのですが、彼は、「アメリカはアジアの太平洋国家だ」と言うのです。また、「アジアの首脳・トップ全員に会ったのは私だけだ」とも言いました。
なぜ、そういうことを言っているのかというと、アメリカはリーマンショックの後、相当落ち込んで国内経済はひどい状態になりました。そこで、アジアが成長センターなので、そこに軸足を下ろそうとしたのでしょう。そういう考えでTPPが良いということで、オバマさんは本当に熱心にTPP参加を勧めていると、私は思ったのです。
ですが、1年半前の2013年10月に、いよいよAPEC(Asia-Pacific Economic Cooperation、アジア太平洋経済協力)で各国首脳が集まってTPPについて決定しよう、合意に持っていこう、という時、3日前になってオバマさんは突然、参加をキャンセルしたのです。どうしてかというと、「共和党が反対して財政が動かないので行かない」ということでした。これには皆、驚いて、オバマさんのTPP参加への意欲が問われる出来事でした。
●大統領の来日でも実現しなかったTPP合意
その後、去年の4月に今度はアジア歴訪をするということで、国賓として来日しました。天皇陛下がお迎え、お見送りをされましたね。今度は、オバマさんもTPP交渉に踏み込むのかと思ったら、通商代表のマイケル・フロマンさんと甘利さんが2日半もほとんど寝ないでずっと議論する、という状況でした。日米間に暗黙の了解があったと言われていますが、結局何も成立しないままオバマさんは韓国に行って、日本の慰安婦問題に批判的発言をするなどしています。とにかく、あの時に安倍さんは非常に努力されたと思いますが、あとである筋から少し聞いたのですが、本当にああいうオバマさんの迎え方をして、天皇陛下...