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アベノミクス新成長戦略のポイント「TPP」はどうなる?

アベノミクス新成長戦略のポイント(1)TPP~合意に向けた正念場

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
日米首脳会談(2014年4月24日)
出典:首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201404/24usa.html)より
島田晴雄氏がアベノミクスの新成長戦略の大きなポイントとして挙げるのが、TPPである。未だ最終合意に至らないが、日米双方にとって今年はその成立に向けてのラストチャンスだ。今が正念場の日米の事情を踏まえ、TPPスタートから現在に至るまでの紆余曲折を解説する。(2015年1月26日開催島田塾第120回勉強会島田晴雄会長講演「年頭所感 アベノミクス 2年間の経験とこれからの日本経済」より、全10話中第3話目)
時間:07:01
収録日:2015/01/27
追加日:2015/02/14
≪全文≫

●TPPスタートから日米参加までの経緯


 前回、安倍内閣の新成長戦略のポイントとして、まず企業投資と資本市場についての改革、二番目に「産業競争力強化法」に代表される経済の新陳代謝がある、とご説明しました。

 三番目のポイントがTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)ですが、これが非常に大きいですね。TPPについては、もうご存知の方がほとんどだと思いますが、念のために「TPPとはこういうことです」というのを申し上げたいと思います。

 これは、10年ほど前に、環太平洋の小さな国、例えばチリとか、シンガポール、ニュージーランドやブルネイといった国が、非常に高度な自由貿易の構想を考えたのです。これは貿易も投資も知的財産権も、何もかも全部自由化して、関税をほとんどなくすというようなものでした。それは、実現すればある種の理想世界ですよね。

 アメリカがこの動きを見ていて、面白いと言って、何年か後の2010年にTPPに入ったのです。ただ、皆、小さな国ですから、アメリカが入るとアメリカ一国で経済規模のシェアを9割ぐらい占めてしまうのですね。これでは仕事にならないので、もっと力のある国に入ってほしいということだったのでしょう。日本に入ってほしいという感じになったのです。


●今が正念場のTPP-日米が合意すれば世界の貿易の歴史が変わる


 しかし、アメリカは、日本に何度も入るよう言っておきながら、入ると今度は向こうの議会がいろいろ言い出しました。アメリカという国は、大統領と連邦議会で成り立っており、大統領は行政のトップですが、決定権は議会にあります。日本よりはるかに議会が強いのです。ですから、いろいろと口を出します。この議会の養豚業関係の議員など、まるでカウボーイさながらに力ずくで押してきて、ホワイトカラーに圧力をかけてくるのです。

 そういうわけで、日本もかなり言われて、交渉にあたった甘利明さんも随分と苦労されたようです。いずれにしても、日本とアメリカが入って全体の9割以上です。中国は様子見で、韓国は関心はあるようですが、まだ参加には至っていません。

 とにかく、日米が合意すれば世界のトレードの歴史は変わります。これはもう明らかに変わる。GATT(General Agreement on Tariffs and Trade関税と貿易に関する一般協定)、WTO(World Trade Organization世界貿易機関)でやってきた状況もがらっと変わって、これがモデルだ、ということになります。今が正念場なのですね。こうしたことを、この2年半どんどんやっているわけです。


●TPP参加への意欲を問われたオバマ大統領の言動


 オバマさんがTPPに関しては一生懸命、旗を振りました。オバマさんは、第一期の時はなかなか頑張っているな、と思いました。2009年に日本に来た時に、サントリーホールで講演をしていて、その時、私はオバマさんのほぼ目の前にいたのですが、彼は、「アメリカはアジアの太平洋国家だ」と言うのです。また、「アジアの首脳・トップ全員に会ったのは私だけだ」とも言いました。

 なぜ、そういうことを言っているのかというと、アメリカはリーマンショックの後、相当落ち込んで国内経済はひどい状態になりました。そこで、アジアが成長センターなので、そこに軸足を下ろそうとしたのでしょう。そういう考えでTPPが良いということで、オバマさんは本当に熱心にTPP参加を勧めていると、私は思ったのです。

 ですが、1年半前の2013年10月に、いよいよAPEC(Asia-Pacific Economic Cooperation、アジア太平洋経済協力)で各国首脳が集まってTPPについて決定しよう、合意に持っていこう、という時、3日前になってオバマさんは突然、参加をキャンセルしたのです。どうしてかというと、「共和党が反対して財政が動かないので行かない」ということでした。これには皆、驚いて、オバマさんのTPP参加への意欲が問われる出来事でした。


●大統領の来日でも実現しなかったTPP合意


 その後、去年の4月に今度はアジア歴訪をするということで、国賓として来日しました。天皇陛下がお迎え、お見送りをされましたね。今度は、オバマさんもTPP交渉に踏み込むのかと思ったら、通商代表のマイケル・フロマンさんと甘利さんが2日半もほとんど寝ないでずっと議論する、という状況でした。日米間に暗黙の了解があったと言われていますが、結局何も成立しないままオバマさんは韓国に行って、日本の慰安婦問題に批判的発言をするなどしています。とにかく、あの時に安倍さんは非常に努力されたと思いますが、あとである筋から少し聞いたのですが、本当にああいうオバマさんの迎え方をして、天皇陛下...
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