米中の貿易戦争とその構造的要因~自由貿易の難しさ~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
米中貿易戦争に見る自由貿易の維持が難しい理由
米中の貿易戦争とその構造的要因~自由貿易の難しさ~
柳川範之(東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授)
アメリカが保護主義になっているのは、トランプ政権の支持基盤が製造業だという理由だけではない。一方、中国の強硬な姿勢には中国経済の実態が関連している。米中の貿易戦争について、その構造的要因などを踏まえて解説する。
時間:15分39秒
収録日:2018年10月2日
追加日:2018年11月22日
≪全文≫

●自由貿易の安定性が崩れた結果、起こったのが米中の貿易戦争


今回は、アメリカと中国との間で最近起こっている、「貿易戦争」といってもおかしくない激しい紛争について、お話をします。この貿易紛争ではまず、アメリカの方から中国に対して、高い関税をかけるという主張がなされています。それに対して中国も応戦して、報復的な関税や輸入制限措置などを行うと主張をしています。そういうことで、お互いの主張がエスカレートしてきているのが現状です。

 アメリカと中国との間のこの状況は、この先どういう形で進展していくのか、現段階では予測が難しいと思われます。場合によっては、これがもっと激しくなっていくことも、懸念される状況です。というのは、自由貿易はもともと実現するのが難しいものだからです。実は、国際貿易の問題は、学問的には自由貿易が望ましいといわれています。そこで、できるだけお互いに関税をかけず自由な取引をして、良いものが安く手に入るようにしようということで、WTO(世界貿易機関)をはじめとして世界中でいろいろなルールができました。

 しかしながら、先述したように自由貿易は本来、実現が難しいものなのです。それはつまり、一生懸命ルールを作って、一生懸命それを守っていこうとしないと、なかなか維持することが難しいものなのです。そういう意味では、ここしばらく続いた自由貿易の安定性が、さまざまな政治的な理由により少し崩れてしまって、その結果として起こったのが、今回の米中の貿易戦争だと思います。


●生活を脅かされる人々には声を強く上げるインセンティブがある


 このように、自由貿易が望ましいといわれながら、その維持がなかなか難しいのは、なぜなのか。それはやはり、自由貿易によって、ある意味で生活が脅かされる人たち、言い換えると、保護貿易、あるいは海外の製品などに関税がかかることによって守られる人たちが存在するからです。それは結果的には、少数の人だったりするかもしれません。

 そういう意味では、自由貿易は、大多数の人が広く薄く利益を享受していて、少数の人が比較的大きなダメージを受けるということです。全体のプラスとマイナスを合わせると、実はプラスの方が大きいのですが、プラスのメリットを感じている人たちは、それを広く薄くしか感じないので、あまり大きな声を出しません。例えば、消費者は大抵の場合、...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
松下幸之助の人づくり≪3≫理想の政治(1)国家に経営理念があれば、もっと日本は発展する
無限の可能性に挑め…国家経営を創造し、新時代の憲法を!
松下幸之助
マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか
マルクスを理解するための4つの重要ポイント
橋爪大三郎
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏

人気の講義ランキングTOP10
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(2)戦争省とチャーリー・カーク暗殺事件
チャーリー・カーク暗殺事件とは?その真相と政権への影響
東秀敏
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
組織心理学~「不満」を生かす(1)不満・相談・予防
職場への不満は6割以上~ポイントは隠蔽、心理的安全性…
山浦一保
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
経験学習を促すリーダーシップ(4)成功を振り返り、強みを伸ばす
なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは
松尾睦
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏