●2019年米朝首脳会談後、世界は大きく動く
皆さん、こんにちは。シティグループ証券の高島修です。今日は、アメリカと中国の貿易戦争、およびそのことが金融、為替市場に与える影響についてお話ししようと思います。
実は今日は2019年2月6日なのですが、ドナルド・トランプ大統領の一般教書演説が行われました。その中で2月27、28日にベトナムで北朝鮮の金正恩委員長と会談し、その前後で中国の北京を訪問し、習近平国家主席と会談するということが言われていました。そこで大きな動きがあると思いますので、そうしたことを踏まえながら、今の大局観についてお話しします。
●トランプ政権が打ち出してきた保護貿易措置の数々
2018年からトランプ政権はさまざまな保護貿易措置を打ち出してきました。今、見ていただいているスライドは、トランプ政権がとってきた、いわゆる通商政策をまとめたものです。アメリカの通商関係を規定する法律の中で非常に重要な通商法201条があります。1974年、この通商法201条を使ってセーフガードを発動しました。太陽光パネルとか大型洗濯機の輸入制限という方向性を打ち出してきたのです。
それと同時に、1962年に成立した通商拡大法の232条を使って、安全保障上の脅威があるという理由で鉄鋼、アルミの輸入制限を打ち出しました(スライド資料(3)参照)。これは日本でも2018年に一度話題になっていたものなのです。こういったことをやりながら、1974年通商法301条を使って、中国との貿易関係が不公正であると主張し、特に知的財産件侵害などを理由に関税政策を打ち出すということになりました(スライド資料(2)参照)。
この中国への関税政策なのですが、2018年5月くらいには、一応閣僚級の実務者レベルで関税引き上げを見送るということが一度決まっていたのです。しかし、同年6月のシンガポールにおける米朝首脳会談からアメリカに帰国したトランプ大統領が、その直後にこの関税引き上げ見送りという合意をくつがえして、中国に関税を掛けていくと発表したのです。
こういった措置と合わせて、NAFTA(North American Free Trade Agreement、北米自由貿易協定)の再交渉をカナダ、メキシコと妥結し、韓国とのFTA(Free Trade Agreement、自由貿易協定)の再交渉も一緒に行われています。また、TPP(Trans-Pacific Partnership Agreement、環太平洋パートナーシップ協定)脱退に伴って、日米2ヵ国間FTA交渉を求めてきている。このような動きになっています。
●高関税政策発動で米中が応酬
この中で、特に今日注目するのが中国への高関税政策ということになりますが、重要な数字は、今のアメリカの中国からの輸入が大体年間5000億ドルくらいだということなのです。
このような状況下で、2018年トランプ政権が発表した中国への関税政策は、当初5000億ドルのうち500億ドルに25パーセントの関税をかける、というものでした。それに続いて、2000億ドルの輸入に対しても10パーセントの関税をかけ、なおかつ、それをさらに25パーセントに引き上げるかもしれない、というような方向性を打ち出してきていたわけです。
これに対して、中国も対抗措置として、アメリカからの輸入に関税政策を発動するということになり、当初、大豆、自動車、古紙といったものに対して25パーセントの関税をかけるというのです。これはアメリカが行ったことと同じで、アメリカからの500億ドルの輸入に高関税を発動して、アメリカが対中国の輸入2000億ドルへの10パーセント関税を発表した段階で、今度は中国がアメリカからの輸入の600億ドルに最大10パーセントの関税という措置を打ち出してきました。
●事態は貿易戦争から各分野での覇権争いへ
ただ、中国におけるアメリカからの輸入は、年間1500億ドルくらいということで、アメリカが中国から輸入している5000億ドルよりも規模が小さいのです。ですから、どうしても中国の関税政策の発動には限界が生じており、苦しい立場に追い込まれたということになります。
こういった中で、当初は米中の「貿易戦争」という言葉が使われていて、それが次第に覇権争いの色彩を強めていったのです。しかし、今のところは全面的な覇権争いというよりは技術覇権、その向こうに見える金融覇権といったところをうかがわせるもので、地政学とか軍事という点では、まだ遠い話と思われます。いずれにしても、単なる通商問題だけではなく、米中間の覇権争い、さまざまなテクノロジーの問題というところの争いに発展してきたといえます。
このような両者の覇権争いを警戒させる決定的なイベントとなったのが、2018年10月4日にハドソン研究所で行われたマイク・ペンス副大統領の演説です。資...