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トランプ大統領が再選されると世界にどんな影響が及ぶのか

2020世界の政治経済と日本(5)次期米国大統領選と米中対立

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
仮にトランプ政権が2期目に突入した場合、財政的な行き詰まりを迎えて、国際政治・経済に大きな混乱を招くと島田晴雄氏は指摘する。しかし、対抗する民主党側も現状を打開できる公算は限りなく小さい。そのようななかで非常に大きなリスクファクターとして存在している米中対立が、特に経済面で激化してきている。(2020年1月23日開催島田塾会長講演「2020世界の政治経済と日本」より全8話中第5話)
時間:08:40
収録日:2020/01/23
追加日:2020/04/27
カテゴリー:
≪全文≫

●トランプ大統領は再選に意欲を燃やしている


 トランプ大統領は大統領再選に異常な執念を持っているのです。「America First. Make America Great Again」というスローガンを掲げて、国際政治を徹底的に選挙のために用います。まず中国やイランに対して強硬策をとりました。北朝鮮に関しては、ICBMをやめさせたと、力の誇示をしました。そして、貿易戦争雇用が生まれると話しています。実はそうしたことは起こらないのですが。

 それから国内政治と経済に関しては、フェイク情報を流しています。既存メディアはすべて無視して、早朝にツイートして、一日に何回もツイートします。こういったコミュニケーションは、ローマ帝国以来の世界史で初めてでしょう。普通政府上層部の意思は、部下を通じて記者団に発表され、その情報が徐々にメディアから人々に伝わっていきます。しかし、トランプ大統領はいきなりツイートするので10億人程度に、情報が急に拡散してしまうのです。ですので、トランプ大統領は、激烈な批判を受けても、歴史に残るでしょう。指導者のコミュニケーションの方法という点で、世界史を完全に変えた人ではあります。


●トランプ政権が2期目突入なら財政的に大混乱を招く可能性が高い


 高い確率でそうなると思いますが、仮にトランプ大統領が2期目に選出されると何が起きるでしょうか。まずトランプ応援団にはさまざまな政策で報いていきます。例えば大企業や富裕層には大減税を行います。労働者向けには、中国に高関税を掛けました。それから石炭産業に対しては、パリ協定から離脱しました。その結果、財政赤字が累積していきます。今1兆ドルほどですが、数年後には2兆ドルになるといわれています。大減税で税収が減ったのですが、景気が拡大したら、税収が伸びるだろうと思われていました。しかし、ほとんど伸びませんでした。ですので、今財政赤字はひどい状態になっています。

 財政赤字だけではなくて、貿易赤字も非常に増えて、2年前には歴史上最大になりました。資本取引を含めた経常赤字も非常に悪化しています。双子の赤字です。双子の赤字は、実はレーガン元大統領のときにも政権を苦しめました。で、レーガン元大統領は、当時アメリカに対して最大の黒字国、つまりアメリカが赤字を被っている国は日本であったために、円高にすることにしました。これは本来してはいけないのですが、為替市場にアメリカの財務長官が口を突っ込んで、プラザ合意が成立しました。これによって日本は腰を砕かれて、二十数年、足が立たないままです。アメリカが双子の赤字に苦しむようになると、変な余波があちこちに飛んでいく可能性があるので、気をつけなければなりません。

 景気が悪くなると、しばしば世界中が混乱するのですが、それにどのように対処すれば良いでしょうか。今までは景気は4、5年で循環していたのですが、今の景気は十数年継続することもあります。財政・金融だけでは、うまく調整できないという議論が多く存在するのです。やはり国際協力が必要とされます。

 ところが、トランプ大統領は同盟国も徹底的に攻撃しているために、国際協力はおそらく得られず、復元力がありません。ノーベル賞を取ったポール・クルーグマン教授という素晴らしい人がいます。彼が『文芸春秋』に寄稿したのですが、トランプ大統領の政策は思いつきの産物なので、先行きはまったく見えませんとノーベル経済学者が書くほどの状況なのです。

 仮に民主党が政権を取ったら、どういうことになるでしょうか。トランプ大統領の時代に、アメリカはすでに完全に分裂してしまっています。民主党政権になっても、修復は難しいでしょう。意外に民主党の内部には、中国に対する強硬派が共和党以上に多いのです。だから中国が発展していくと、対中姿勢はさらに強固になる可能性があります。アメリカの信用はトランプ大統領の時代に急速に落ちていて、世界中でもうこの国は信じられないという意見になっています。評判は地に落ちているのですが、民主党政権になっても回復はしないでしょう。


●核の傘は有名無実、日本は安全保障を独自で考える必要がある


 そういう状況のなかで、日本にどういう課題があるでしょうか。アメリカは変貌しつつあるのではなくて、すでに変わってしまいました。国内に非常に深刻な社会格差、分断が起こっています。とても国際社会のことを考える余裕がありません。ですので、戦後世界の復興と発展を支えた偉大なアメリカは過去の幻影です。

 トランプ大統領のアメリカは自国の利益だけ追及しています。世界のリーダーとしての自覚はまったくありません。北朝鮮がICBMを封印するのは良いのですが、中距離・短距離ミサイルはすでに山ほどつくっているので、日本を攻撃するということになれば、日本はやられるままになってし...
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