●2020年は歴史家が「世界が変わった」と指摘する激動の年になるだろう
それでは講演に入ります。2020年1月に入って、世界が急速に動きました。アメリカのトランプ大統領の罷免につながる弾劾裁判が1月21日から始まっています。それから、イギリスのBREXITが1月末に実現し、EUから脱退します。また、アメリカはドナルド・トランプ大統領の指令で、イラン革命防衛隊のガーセム・ソレイマーニー司令官を爆撃して殺害しました。このように世界は大変なことになりつつあるというような激動が続いています。
もっとさまざまなことが起こっているのですが、なぜこのようなことが起きるのでしょうか。実は、その裏では非常に大きなメガトレンドが動いています。そのメガトレンドは、おそらく何十年かあとに、歴史家が「あの時、世界が変わった」と指摘するであろう、大きなものです。この数年の変化です。2017年から始まって、2020年はまさに佳境の大変化が起きています。そういった変化の表象として、先ほど挙げたようなことが起きていると思います。
●2020年世界が大変化するなか、日本はどう動くか
その大変化の中身は以下の通りです。第二次大戦が終わってから70年から80年近く経過しましたが、そのなかで冷戦時代が40年間ありました。この時は「パクスアメリカーナ」と呼ばれる、アメリカを中心とする、世界の秩序維持システムみたいなものが機能して、曲がりなりにも世界の発展と安定を維持してきました。これは戦後体制と呼ばれますが、これがこの数年で崩れつつあります。世界が多極化して、それぞれの国が国際協力しなくなり、自国中心主義になりつつあります。アメリカは完全に排外主義ですし、ヨーロッパも同様です。
アメリカのトランプ大統領の登場は、これを象徴しています。彼は「America First」を掲げ、一国中心主義で、国際協力に非常に消極的です。さらに、軍拡志向が非常に強いのです。中東によけいな混乱を起こしています。もはやアメリカは世界のリーダーとしての自覚を喪失したと思います。
そして、現在アメリカは、中国を相手に貿易戦争から始まったハイテク覇権戦争のただなかにあります。事実上の戦争状態に、トランプ大統領が持ち込んでいます。アメリカと中国は政治の考え方がまったく違うので、おそらく水と油で妥協はお互いに不可能です。これは、長期化すると考えられます。
2020年1月末にBREXITで、イギリスがEUから離脱することになります。ドイツはなぜか非常に低迷しています。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が一人でがんばって、警鐘を鳴らしています。しかし、足元の欧州ではすでに反欧州主義が蔓延しています。ですので、もしかするとEUが瓦解するのではないかと思わせるような動きが進んでいます。
日本がどのように対応するのかが問題です。安倍首相の自民党総裁としての任期は2021年9月までですが、そのあとどう変化するのでしょうか。二階俊博自民党幹事長は4選もありではないかといっていますが、いずれにしても日本の最大の課題は、ポスト安倍はどうするのかという点です。
本日の講演では、安倍政権のこれまでの6年間の事績を評価したいと思います。2020年も一所懸命取り組もうとしていますが、今年の政策は全て網羅します。ただ、安倍政権がきちんと取り組んでいない問題として、財政問題と金融の出口と世界戦略が挙げられます。加えて私は、日本にはアメリカに押し付けられたものではない、独特の安全保障構想が必要だと思っています。
●トランプ大統領はどのような政治家か
ここまでがプレビューですが、まずトランプ大統領の話題から始めたいと思います。世界の政治家で、あれほど毎日のように世界を騒がせている人はいません。その実態を簡単に見てみましょう。
トランプ大統領はこういいます、「America First. Make America Great Again」。これはトランプ流のナショナリズム、排外主義、保護主義で、国際協調を全部否定するといいます。彼は公約を多く掲げましたが、なんと一つずつ全て実現しているのです。とんでもない公約ですが、きちんと達成しています。
なぜそうした人が選ばれたのかというと、選挙民のアメリカ政治に対する大変な幻滅があったためです。アメリカ選挙民のかなりの人は、ワシントンの既得権益政治に不満を持っています。権力と金権を独占し、既存勢力のために政治をする。われわれはまったく豊かになっていないではないかという人たちの半分程度は、熱烈なトランプ支持者でしょう。
トランプ現象と呼ばれますが、トランプ大統領が辞めても、また同様の人が出てくると思います。なぜかというと、ワシントンに対する強い不満を国民が抱えているわけですから、ワシントンの政治家は不利なわけです。そうすると、maverick、つまり一匹狼...