●「アベノミクス」経済政策のプラス評価と批判的評価
本命のアベノミクスを少し評価してみましょう。アベノミクスには、金融・財政・成長戦略という3本の矢がありました。
まずプラスの側面についてお話しします。2013年から2019年まで1.1パーセントの成長を続けています。潜在成長力は0.3といわれているので、これはなかなか素晴らしい成果です。最長景気を記録しました。
企業利益は非常に増えました。これも評価できますが、実は利益が投資されておらず、雇用にも回っていません。これらは、内部留保にまわっています。これは安倍首相の責任ではないですが、少し問題です。
加えて、労働供給と雇用が少し増えています。多くの先進国では人口が減っています。人口が減ると経済は成長しないので、アベノミクスの第二期は比較的評価されているのです。その背景にある政策の中で最も大きいものは、一億総活躍というスローガンのもとでの新第三の矢、介護離職ゼロ政策です。これがシニア世代の労働参加を促しています。つまり中高年の人がさらに高い年齢の親の面倒を見ていたので、仕事に出ることができませんでした。ですから、このさらに高い年齢の親世代の人の面倒を見る体制を整えたことで、中高年の人が仕事に従事できるようになったのです。もっと改善していこうということで、この政策は世界中から評価されています。
対して、批判的評価もいくつかあります。一つはクロダノミクスに対する批判です。クロダノミクスの仕組みは、ずっとデフレが続いていたので、その克服のために、ベースマネーを増やしました。すると、多くの円が国際市場に出るため、円の価値が下がります。結果として輸出が伸びるので、経済が成長します。さらに、経済成長すると輸入が拡大し、円の価値が下がっているために、物価が上がります。要するに、経済成長して物価が上がるために、この政策は良いとされてきたのですが、現状そのような状態には全くなっていません。
不運だったのは、この政策を取り始めた直後に少し物価が上がったのに、それから1年後の2014年に物価の上昇がストップしたことです。オイルショックなどのさまざまな理由があったといわれていますが、今も、ほとんど上がっていません。その意味では、この政策は失敗です。しかし、安倍首相がアベノミクスの基本方針を変えないために、黒田東彦総裁は方針を変えるとはいえないので、続けているのです。その結果、どんどんベースマネーを増やした挙句、とうとうベースマネーがGDPと同じぐらいの水準に到達してしまいました。
これをもとの水準に戻さなければなりません。イソップ童話のカエルのお腹がふくらんだように、中央銀行のBS(バランスシート)が大きく膨らんでしまったので、もとに戻す必要があります。そのためには、買い込んだ資産を、市場を乱さないように売るわけです。日本はGDP以上の水準になっているので、50年程度かかる可能性があります。
日本の国債を売っても、それを世間は買うでしょうか。日銀相場で価格を引き上げているので、足元を見て下がりますよね。価格が下がると、金利が跳ね上がり、予算編成ができなくなります。また、金利が跳ね上がると、実はベースマネーを出しているといっても、世界には出ていません。ほとんど日銀の当座預金に貯まっているのです。さらに金利が付いているので、銀行は仕事をしなくても利益が上がっているという変な構造です。これは大問題です。この話は当局の人はしません。全てのツケが、次の世代だけではなく、われわれにも掛かってきます。
●日本の財政状況は非常に深刻な状態になりつつある
次に、規律のない財政政策も深刻な問題です。アベノミクスの目標は、経済成長と財政再建だったはずなのです。ところが、成長はしましたが、財政再建にはほとんど手をつけていません。再建計画がありましたが、全く機能していません。
日本は返済もしているのですが、借金もしていて、予算の6割程度が生のお金ではないのですが、この生のお金の差し引きのことを「基礎的財政収支」と呼びます。2010年の段階で基礎的財政収支は、とんでもない赤字でした。これを、10年かけてゼロにしましょうと打ち出しましたが、まったく改善の兆しが見えませんでした。そのため、基礎的財政収支を用いた目標設定はやめるという、後出しジャンケンのような話が出てきました。
ということで、財政赤字が累積しています。国家GDPが500兆円なのですが、今年の政府案では、国と地方の予算を合わせて1125兆円となっています。これは200パーセントに近いですよね。ところが、国債と地方債務と国庫短期証券と借入金を合わせて一般政府の総債務といいますが、これが1279兆円規模です。この数字は2016年末の数字なので、今はこの水準を超えていると思いま...