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トランプ大統領が中東に引き起こした混乱と危険

2020世界の政治経済と日本(4)トランプ大統領と揺らぐ中東

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
中東問題は世界の安全保障を考える上で、非常に重要な地域である。トランプ大統領は中東の国々に対して極端な対応を取っているため、中東の政治情勢は動揺しているという。イラン、イスラエル、シリア、サウジアラビアなど、この地域の大国はそれぞれ異なる文化的歴史的背景を持ち、対応も一筋縄ではいかない。その難しさとトランプ大統領の対応の問題点を探っていく。(2020年1月23日開催島田塾会長講演「2020世界の政治経済と日本」より全8話中第4話)
時間:06:27
収録日:2020/01/23
追加日:2020/04/24
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●イラン革命防衛隊司令官の死去とその背景


 次はイラン問題です。トランプ大統領は中東については専門的知識が多いというわけではないはずですが、とにかく波風を立てて混乱を招いているのです。その一つがイラン問題です。

 実はイランは、40年前までは中東で一番の親米国家でした。アメリカに友好的であったパーレビ氏が、イランの皇帝だったわけです。パーレビ氏は、アメリカの空軍のジェット機を自分で運転していました。そして、スキーの名手です。私は一度、イランに講演旅行に招かれたことがあるのですが、イランの首都テヘランの南側に、富士山より高い4000メートル級の連山があります。雪を被っているのですが、そこでパーレビ国王がスキーをしているのが、望遠鏡で見えたといっていました。

 こうした体制が、ホメイニ革命によって転覆させられました。ホメイニ師は、シーア派の世界最高峰の高僧なのです。彼が革命を起こして、パーレビ氏は追放されました。アメリカは、パーレビ氏を見捨てました。続いてホメイニ支持の学生が、アメリカ大使館を占拠して、52人の大使館員を人質にしました。当時のアメリカ大統領はジミー・カーター氏でしたが、人質解放交渉に失敗しました。そこでヘリコプター救出作戦といって、大きなヘリコプターで編隊を作り、砂漠を飛んで縦断しようとしました。しかし、おそらく砂嵐に遭った関係で不時着して、大失敗しました。結局、カーター元大統領は天に祈るのみとなりました。アメリカ大統領で、1期4年だけで辞めるのは珍しいのです。この失態によって失脚したのです。当然、国交を断絶しました。これを繰り返してはならないということで、オスプレイを開発したのです。

 そして、トランプ大統領が、イランとの核合意を離脱しました。イランとは絶対ビジネスしてはならないと、世界中の国に圧力をかけたのです。その結果、イランは経済的に苦境に追い込まれました。「革命防衛隊」と呼ばれる部隊が、イランにはあります。正規軍も他にあって、正規軍は陸軍35万、海軍1万5000、空軍3万という規模です。革命防衛隊は、12万5000人規模です。現在、ロウハニ氏が大統領を務めていますが、イランは宗教国家ですので、宗教指導者であるハメネイ師が最高位なのです。革命防衛隊は、ハメネイ師直下の軍隊です。特に最精鋭のコッズ部隊は、対外政策、諜報活動、テロなどの活動に従事しているといわれています。彼らが、おそらくホルムズ海峡での船舶攻撃とか、サウジの石油施設に対するドローン爆撃などを実行したのではないかと思います。

 アメリカの経済制裁があまりに厳しい上、革命防衛隊の圧力もあるので、イラン政府も核合意を反故にしていきます。すると、2020年1月3日、米軍編隊がイランの隣国のイラクのバグダッド空港において、コッズ部隊の司令官であったカセム・ソレイマニ氏が乗っている車列を走行中に爆撃したため、彼は亡くなってしまいました。

 彼はイランでNo.2といわれる人でしたので、普通そのランクの要人を暗殺はしません。トランプ大統領は、彼はテロリストだったと主張しています。

 イランは核合意に反して、どんどんウランの濃縮度を高めています。現在20パーセント程度まで高めているようですが、90パーセントまで到達すると、核兵器になります。これは非常に大きな不安定要素です。


●イスラエルに対してトランプ政権は露骨な肩入れをしている


 また、トランプ大統領は、イスラエルに妙な肩入れをしています。2015年、つまりイラン合意ができた直後に、ベンヤミン・ネタニヤフ首相はアメリカの下院に行って、演説しました。オバマ元大統領がホワイトハウスにいるのに、けしからんといいました。これがトランプ大統領のイラン核合意離脱の底流にあるといわれています。

 トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都として認定し、大使館も移すと発言しました。これは大変な騒ぎになりました。さらに、ネタニヤフ首相の選挙の直前に、トランプ大統領が占領地で帰属はもちろん決まっていないゴラン高原に関して、イスラエルに主権を与えると勝手にいうのです。また、これも大騒ぎとなりました。


●トランプ大統領が中東に引き起こした無用の混乱と危険


 次にシリアに関してですが、実は2018年4月に米軍はシリアの化学兵器施設に大規模な爆撃をしました。この爆撃にはイギリスもフランスも参加しました。その背景にある理由は、些細なことでした。その1年前に習近平主席の目の前で、シリアに六十何発、トマホークをぶっ放したぞといったのですが、習近平主席はニヤニヤしていました。これに少し驚いたのですが、やるといったらやるというところを見せた。それでは規模が足りなかったので、以前の何倍もの爆撃を行ったということです。子どもの喧嘩でもあるまいし、何をやっている...
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